19.

「そりゃあ、この船でしょ。乗客たちの荷物と金品に・・・・・・最悪の場合は命もかしらね」

ため息を吐きながら、アムは顔を曇らせた。

だが、ロイにはリリーの言葉がなんとなく引っかかっていた。気になる違和感にロイが

頭を悩ませていると、リリーがその答えを言い表した。

「本当にそうなのかな・・・。だったら何も、わざわざロガシスがこの船に乗っている必要

はないと思わないかい?単にこの船のあとをつけて、襲えばいいんだから」

それもそうだけど、と彼の意見にアムも首を傾げる。自分の考えをまとめるかのように、

ロイもまた頷いた。

「わざわざルビエスさんを人質にしたことを考えると、彼女の持っている剣って筋も考え

られるけど、それでロガシスが海賊を引き連れて現れるのはおかしいかな・・・」

「そうだなぁ・・・。ルベスが人質に取られたのは、多分僕たちがあの場に行ってしまった

からだと思う。だから、別にルベスを特に人質に取ろうと考えてやったわけじゃないよう

な気がするな」

とすると、ロガシスの狙いはいったい何なのだろうか。それがわからない限り、迂闊に行

動するのは危険だ。

「リリー、他にロガシスについて何か知ってることがあったら、教えてくれない?」

まずは、ロガシスという人物について知っておかなければならない・・・そう考えて彼はリリ

ーに聞いてみることにした。

「うーん、僕が知ってるのは、あくまで噂の範囲内で・・・・・・。ロイ君は、ロガシスのことを

初めて知ったんだよね?」

ロイの住んでいたフレイン村は、ブンガー山脈をさらに白(南)下した、大陸中央部のセン

ターポールの近く・・・つまり、内陸部にある。姉のフィアレートがラインハルトへ出稼ぎに

行っていた関係で、ロイも何度か付いていったことがあるため、さすがに海を見たことは

あったのだが、船に乗って大海原に出るのは実は初めてのことであった。山賊や野盗の

縄張り争いや揉め事に関しての話は流れていたが、海賊に関する話題などは滅多にな

かった。おまけに、当初の予定ではラムリリースを通って白(南)下する予定の旅であっ

たため、ロイたちは黒(北)地域の情勢について何の知識も持っていなかった。彼らの無

知さを一概に責めることはできないだろう。

「仕方ないわ、ロイ様は内陸部の出身なんだもの」

アムはロイのことをフォローしたが、彼自身は、何の知識もなしに知らない土地を行くこ

との危険を改めて自覚し、急なことであったとはいえ、内心反省した。

「私も海上の狼のことは聞いたことはあるけど・・・、観光で来た人たちは特に警戒して

ないみたいだったわ」

「僕も大陸を回るのに船を多用していて、ロガシスたちは強くて恐ろしい海賊だと聞い

たことがあります。でも、ほとんどが海賊船で、一般の客や貨物船が襲われたと言う話は、

聞いたことがないんですよ」

ではなぜ、この船を襲おうとしているのだろうか。

「二人の話を聞いてると、なんかロガシスは普通の賊とは印象が違うみたいだ」

「うん。実際、黒海を行こうとする乗客たちは、白海を行こうとしていた人たちよりも緊張

感に欠けているように思います」

「確かにそう思えるけど・・・でも、じゃあ、なんでルベスを人質にしてまで、この船を襲

おうとするのかしら」

考え込む三人に、部屋の中は静まった。その時だった。彼らが、誰かの大声を聞いた

のは。

「ねえ、いま、何て言ってたの?」

「外に出てみましょう」

ドアを開けると、乗客たちがそこここで慌しそうに駆けていたり、大声を出していたりし

ていた。辺りに空気は妙な緊張を帯びており、人々もなんだかそわそわしているようで

あった。

ロイは、近くにいた乗客の一人を捕まえて、何が起こったのかを聞いてみた。すると男は、

顔面を蒼白にして、叫ぶようにこう答えた。

「逃げたんだ・・・!」

「え・・・いったい、誰が?」

「あいつらだ!あいつら、逃げだしやがった!」

要領の得ない男の答えに、リリーが再度、丁寧に質問を繰り返した。

「落ち着いてください。いったい、誰が逃げ出したんですか?」

だが男は相変わらずの大声で、まるでリリーに怒りをぶつけるかのごとく激しい勢いで答え

た。

「船員たちがいねぇ!あいつら、自分たちだけで逃げ出しやがったんだ!戦いもせずに!

俺たちを囮にして、自分たちだけ助かりやがったんだ!!」

男の言葉を前に、三人はその場に立ち尽くした。あまりにも、それは衝撃的だった。

助かる見込みが薄くなっただけではない。ルビエスを助けることが、これで一段と難しくなっ

たのだ。

「でもちょっと待って。確か、さっき船長に誰か話をしに行ったんじゃないですか」

「ああ、行ったさ。だが、部屋には誰もいねぇ。.おまけに他の船員たちの姿も、いつの間にか

消えちまってる!」

絶望的だった。いまここに乗っている乗客たちだけで、この船を操作することなどできない。

だが突然、何を思ったのか、ロイは身を翻して部屋の中へと戻っていったのだった。





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