18. 隠し扉から伸びている通路は、ロイたちが多少前屈みになっただけで通れるほど、 高さがあった。屈んで服を引っ掛けないように気をつけながら通った入り口からは、 まるで想像ができなかった。 通路は一本しかない。いったい、どこに繋がっているのだろうか。 「あんまり、音を立てないようにした方がいいね。なにがあるかわからないから」 ようやく聞き取れるくらいの声で、最後尾で入り口を通過したリリーがそう言った。3 人の間に、僅かに緊張した空気が流れた。 「よし、行こう」 肩に乗せていたレミングをロイは再び懐に入れると、いつでも身構えることができる ように体勢を整えて、先頭を歩き始めた。 通路の先は外に繋がっているのか、風が途切れることなく吹いており、強い塩の匂 いが鼻腔を過ぎた。 僅かに歩みを進めたところで、ロイは足を止めた。通路は意外にも短く、あと数歩の ところで開けた場所に出るようだった。・・・・・・そこに、ロイは何者かの気配を感じて いた。 何かを言おうとした二人に、物音を立てないよう指を口に当てて指示をして、ロイは 息を殺してそちらの方へと歩みを進めた。 そっと盗み見た先には、小型の船が数隻あった。帆が1本だけ付いている小さな船 で、一隻に10人ほど乗ることができるだろうか。・・・・・・おそらくは、非常用の船な のだろう。そのうちの一隻に、何者かの影が見えて、一瞬ロイは身を引いた。そし て再び、息を潜めてそちらを覗き見た。 長い髪を後ろで括った姿が、時折屈みこんで、何かをしている。 人影は、しばらくそこで何かをすると、身軽な動作で小船を飛び降り、顔をこちらに 向けることなく向こうの方へと歩いていってしまった。・・・・・・いったい、何をしていた のだろうか。 人影の姿と気配が消えたことを確認して、ロイは緊張を解いた。 「・・・・・・足音がしたみたいだけど、誰かいたの?」 リリーの問いに頷いて答えると、ロイは先ほどの船のところへと歩いていった。その 様子に安心したアムとリリーも、その後を付いていった。 「これ・・・非常用の船・・・よね?」 アムのもらした呟きに、リリーが相槌をうった。そう考えるのが妥当だろう。 「船が難破したときや海賊に襲われたときに、乗客を非難させる目的で配備されて いるんでしょう。・・・ほら、あそこ」 リリーの指差した先には、倉庫へと続く扉があった。おそらく、先ほどの人影も、あそ こから出て行ったのだろう。 だがそれにしても、腑に落ちなかった。 ここへの通路への入り口を隠すようにしていたのは、どうしてなのだろう。 「でも、どうしてこの通路は閉鎖されてたのかしら?」 「多分、昔の名残じゃないかな」 ロイとアムの疑問に、リリーが答えた。 「天災だったらあまり意味がないけど、海賊に襲われたときだったら、非難口は一つ でも多い方がいい。梯子が上にあるの、見える?」 指し示された方を見上げれば、確かに上・・・ちょうど、一階層上にある客室の辺りの 高さから梯子が下りていた。おそらく、客室にもここへの道があるのだろう。 「ということは、ここからいけば、うまくすればあの海賊のいる部屋にたどり着けるの ね。上手くすれば、ルベスも助けられるわ!」 善は急げとばかりに駆け出そうとしたアムを、リリーが止めた。 「待って。今は彼女の救出よりも、海賊のことを知らない乗客たちに知らせるのが先 決だよ。船長にも知らせて、船員を動かしてもらえれば、ルビエスさんも助けられるか もしれません。」 先程の人影が乗っていた船に、ロイも飛び乗ってみた。舟は、太い一本のロープで 本船に固定されている。小さい船のためか、ロイの飛び乗った反動で大きく舟は上下 に揺れた。 「どうしたの?ロイ様ー!」 床板部分を眺めていると、なにか手を加えたような部分を彼は見つけた。・・・・・・何 かが、埋め込まれているようだった。 「うーん、なんだろう、これ」 リリーに見せてみたが、ロイと同様に首を横に振った。後から好奇心に釣られて船に 飛び乗り、そして尻餅をつきながら覗き見たアムも、それは同じだった。だが、ここで こうして考えていても仕方がない。早くここを出て、乗客たちに教えなければ。 三人は、倉庫を抜けて、再び先ほど通った通路に戻ることができた。倉庫の前はお ろか、通路には誰もいなかった。 ロガシスの姿を警戒しながら階段を上り甲板へと出てみると、近づきつつある海賊船 に乗客たちは多少ざわつき始めていた。今の状況を確認するために、リリーが甲板 で海賊船を見つめていた乗客の一人に声を掛けた。 「ああ、今、船長に話を聞いてるところさ。船員たちの姿も見えないから、きっと戦闘 に備えて準備をしてるんだろう。俺も船長の話を聞いたら、避難のために荷物をまと めておくつもりだ。あんたも今のうちに準備しといた方がいいよ」 リリーが話している間、ロイとアムは甲板の様子を見ていたが、ルベスはもちろん、 ロガシスの姿も見えなかった。三人は今後の作戦を話し合うために、ロイの部屋に 戻ることにした。 リリーの話によれば、”海上の狼”と呼ばれるロガシスの率いる海賊は、黒(北)海 で最も強く、そして大きな海賊であり、この船の戦力ではどう作戦を立てても勝ち目 は到底ないという。おそらく船長の採る策として考えられるのは、船員たちで戦って 注意をそちらに引き付けておき、その隙に乗客たちを逃がすというものだろう。 だが問題は、ロイたちは今、ルビエスという人質をその海賊の首領に取られていると いうことだった。他の乗客が逃げることができても、ロイたちは・・・・・・少なくともロイは、 逃げることができない。 「でも、ロガシスの目的はいったい何なんだろうね」 唐突に、リリーが頭を掻きながら言った言葉に、ロイの思考は途切れた。 |