17.

 ルビエスは一人、ロガシスの部屋で葛藤していた。

彼女は、両手両足を縛られたまま、ベッドの上でもがいていた。

ロガシスは先ほど部屋を出て行ったきり、戻る気配がない。今のうちに、ここを抜

け出して、乗客たちに知らせる必要がある。それに、ロイたちの安否も気になった。

だが―――

ロープを解こうとする腕の動きを、鈍らせるものがあった。


―――私一人で、いったい何ができるというの?


心の中で、そう自問する自身の声をルベスは聞いた。それで、腕の動きが鈍って

しまった。

もちろん、わかっている。あのロガシス相手では、自分には何の手出しも許されな

い。見つかれば、今度こそ無傷ではすまされないだろう。

そのロガシスの、反撃が怖いと思った。先ほどの戦いが、ルベスの脳裏に蘇る。

あっという間だったのだ。

あっという間に、反撃をする間もなくルベスは捕らえられていた。そして衝撃と、そ

れから起こるだろう事への恐怖が体を襲い、身動きすることができずに気を失っ

てしまったのだ。呪文を唱えることすら、頭の中から消え去っていた。

その場に居合わせたのが自分一人だったならば、おそらく殺されていただろうとル

ビエスは身震いした。

身をよじって、ルベスはドアの方を見た。ドアの方に近づいてくるものの気配はない。

ふとその時、彼女の視界の端に、テーブルに置かれた2本の剣が入った。そちらに

視線を向ける。


私は無力だ。

でも、勝つための手段が、ないわけではない。


彼女の青い双眸が、うち1本の剣を睨みつけた。―――神官サイの剣だ。

あの、ラインハルトの王を助けたときのようにすれば、きっとロガシスを倒すことがで

きる・・・・・・いや、それが無理でも、牽制することくらいはできるのではないだろう

か。


サイの持っていた剣を、ロイの父親であるライから譲り受けたのは、ルビエスが6歳

になった時だった。この剣は、神官戦争終結時・・・・・・つまり、神官ヴェレヌがサイを

倒そうとしたとき、サイがライに放ったものなのだ。

ライの話では、サイは自らの武器を捨ててヴェレヌと対峙したらしい。サイの性格から、

どうやら話し合いをしようとしたようなのだ。だが結局、ヴェレヌは聞く耳を持たずに攻

撃を仕掛け、従官たちをけしかけてきたのだ。激しい攻防の中、サイは自分の従官・・・

ライとフージュを光の大陸へと飛ばし、ヴェレヌの術を受け、倒れた。これが、神官戦争

の最後らしい。

飛ばされて、気がついたライの手元にあったのが、このサイの剣と、今はロイの持つ槍

だった。そしてロイとルビエスは、それらを譲り受けることとなる。・・・・・・神官戦争の謎

を突き止めるために。

だが未だ、神官戦争はおろか、神官に関する新しい知識はまったくといっていいほど

得られていない。唯一分かったことは、サイの持っていた剣が相当な力を持っており、

多くの者がそれを手に入れたがっているということだ。


―――そしてそのことが、自分たちの身を危険に晒している。


ライにも、そうなることはわかっていたはずだ。ならば、ロイとルビエスを危険に晒して

まで神官戦争の真相を明らかにさせようとしているのは、なぜなのか。自分の子供の

ように愛してくれたのに、だ。


・・・・・・強くさせるため、だと、ルべスは思った。


自らの足で歩き、自らの目で知り、自らの知で考え・・・・・・そして自らの力で道を切り

開く、そのための力。

そのためにライは、この重要な役目と武器を、二人に託したのだ。ライがやれば、もっと

早く済むことだろう。だが、それでは何の意味もない。


―――あの時・・・


ルビエスは瞑目しながら、神官戦争の真相を探求するための旅をすることを、ライから

言い渡された日のことを思い出した。

いつものようにライに剣を教えてもらい、家に戻るときのことだ。

「―――ルビエス。君に話がある」

呼び止められた彼女は、その時、ライからロイとともに旅をするよう言われた。父親とし

て、というよりも、師としての指示だった。

「これは、君たちに与えられた使命だ。必ず、やり遂げるんだ」

ルベスは、使命感という名の重荷を背負って、旅に出た。己の無力さを感じる度に、そ

れは重く、暗く、冷たく心に圧し掛かる。


次に聞こえたのは、ラインハルトの武器屋の声だった。

「剣を恐れてはいけない。恐れれば、剣に力を吸い取られる」

そして差し出されたのが、横においてあるセラミックソードだ。サイの剣よりも軽く、切れ

味もよいため、サイの剣よりも大分使い心地がよい。だが、武器商人がルビエスに望ん

でいたのは、セラミックソードを捨てることだということを、彼女は分かっている。


―――あの剣があることで、サイの剣の存在が重く感じられる。

サイの剣を、私は使えなければならないのだ。


そして自らの力で、道を切り開かなければならない。

「私は・・・・・・どうすれば強くなれるの」

涙で濡れる頬をベッドに埋めながら呟く彼女の声は、いつになく、弱々しいものだった。





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