15. 誰にも気が付かれないように、ロガシスはルビエスを自身の使っていた部屋 に連れ帰った。気絶しているルビエスをベッドの上に寝かせると、そのまま両手 両足をロープで縛って身動きを取れないようにした。 そして、腰に差してある2本の剣を、取り上げた。 椅子に腰を下ろすと、ロガシスは興味深そうにその2本の剣を眺めた。一方は レイピアのように細長く、もう一方はそれよりも少し幅広だが非常に軽い不思 議な剣だった。刀身を鞘から抜くと、尚軽い。 ロガシスはその隻眼を細めて、白く輝く刀身に見入った。 「面白い素材だ・・・・・・だが、斬光石ではない。とすると、神官の剣はこちらか」 彼は、もう片方の細い剣を柄を手に取った。こちらは普通の剣と同様の重量が ある。 「これが、サイの剣・・・」 柄の細工を眺め、そして刀身を拝もうと柄を引こうと手に力を入れた。・・・だが、 いくら力を入れても、剣が抜けることはなかった。 「・・・これは・・・・・・」 「その剣を、抜かないで」 唖然とするロガシスに、気が付いたルビエスがそのままの姿勢で言った。 視線をルビエスに向けると、彼は面白そうに笑った。 「ほう・・・。それは、なぜだ?」 ルべスはなにも言わずに、ただじっと、ロガシスのことを睨みつけていた。その 警戒する様子を見て、彼はまた笑った。 「・・・・・・これが、何で出来ているのか、知っているだろう?斬光石だ。三大奇 石と呼ばれる強い魔力を持った石だ。こいつを使えば、森を砂漠に変えることも 容易いと聞く。神官戦争の時も、この石が使われたと伝え聞いている。だが、 それはあくまで噂だ。斬光石を見たことがある者など、ほとんどいないだろう」 言葉を切って、今度はロガシスがルベスの双眸を睨んだ。 「・・・お前、前にこれを使ったことがあるな?」 有無を言わさない強い視線を受けて、彼女の体に緊張が走った。 「お前は、この剣を抜けるんだな?」 沈黙が、しばらくの時を埋めた。 互いに、互いを視線で押し合い、なんとも言えない緊張した空気の流れを作り 出していた。だが、以外にも先に折れたのはロガシスの方だった。 彼は、視線を断ち切ると剣をテーブルの上に置いた。 「まあいい。そんなことは後ででも確かめられる」 彼は立ち上がり、近くに転がっていたザックの中をあさりはじめた。 その様子に、ルビエスは少し緊張を解いた。 「私達を、どうするつもり?」 「お前達に興味はない。俺が興味があるのは、この船だけだ」 そう言って彼は、ナイフや双眼鏡を取り出して懐にしまった。 「お前達も、見ただろう。夜には仲間がここへ来る。そうすれば、この船は俺の ものだ」 「・・・それだけ・・・?本当に、この船だけが欲しいって言うの?」 海賊というのは、盗賊と同じように金品の強奪をするものとルビエスは思って いた。彼らは盗れるものならば・・・時には人ですらも、盗っていくのだ。 だとすれば、ロガシスが積荷や乗客たちに何もしないというのはおかしい。 「・・・・・・それだけでいいと言っているのに、不服そうだな」 「ありえないわ」 「だったらどうする?自分が人質だということを、忘れてはいないだろうな」 言われてルベスは、その気になれば自分が盗られるのだということを改めて 思い知らされた。 自分は、いつだって無力だ。だからこそ、あのサイの剣を使えるようになりたい と思って、頑張ってライに戦い方を教えてもらっていた。けれども、あの剣を抜 くことが出来ても、制御をすることは至難の業だ。気を抜けば、無差別に力を放 出しかねない。だから、使うことが怖くなってしまった。 そして結局、私は弱いまま・・・・・・ 「さて、そろそろ仕上げに取り掛かるか」 部屋を出て行こうとするロガシスの背に向かって、ルベスはまた訊いた。 「どうして、この船なの・・・?」 「この船が、女神の船だからだ。」 立ち止まり、強い口調でそう答えた。 「お前も、見ただろう。あの船員達を」 寝袋を求めても、代償に卑しいことを望む船員。 ルビエスを襲った、船員たち。 そして、ロガシスの襲撃に戦いもせずに逃げ出した船員たち。 あまりに堕落した船内の光景に、ルベスもうんざりしていた。 ふと、あの時のロガシスの言葉が思い出された。 『船員がこれでは、この船を守護するかの聖女も涙することだろうな』 「海には海の秩序というものがある。それを理解できない者に、この船に乗る資 格などない」 「だからって、この船で血を流すつもりなの?」 ルベスの言葉に一瞬振り返った彼の顔は、明らかに不愉快そうだった。 「そんなことには、ならないだろうさ」 そう言って、彼は部屋を後にした。 |