14. 身をかわそうと、咄嗟に動いたのはロイとルビエスだった。 だがそれにしても、ロガシスは4人をどうやって同時に相手にしようというのだろ うか。まさか、別々の方向に逃げる相手を1本の鞭で絡め取るわけにもいかない。 ―――答えは、至極簡単だった。 「・・・・・・きゃっ」 突然、攻撃を交わそうルビエスの体が、宙に浮いた。何が起こったのか理解する 頃には、彼女は全身に痺れるような痛みを感じ、そのまま床に倒れていた。 「ルベス!!」 悲鳴に、背後を振り返ったロイは、その場で動きを止めた。他の2人も同じだった。 ルベス一人が、ロガシスの鞭の餌食となっていたのだ。 単純なことだ。仲間一人を倒してしまえば、残された無力な者たちは動けなくなる ―――すなわち、一網打尽に出来るのだ。今、武器を持っているのはルベスひと りだけ。部屋に槍を置いてあるロイは、今は丸腰だった。 「動くな・・・・・・彼女がどうなっても知らんぞ」 「こ、このっ」 しかしロイも、丸腰だからといって戦わないわけにはいかない。素手でも戦えるよ う、父親と訓練したことも一応あった。 幸い、相手はいま片手にルビエスを捕らえた鞭を持っている。そんなに自由には 動けないはずだ。 「無鉄砲さは父親と変わらんな」 呟いて、ロガシスはロイの体当たりを半身を動かすだけで素早く交わした。ロイの 動きも素早かったが、彼の動きはそれよりも数段上で、しかも明らかに戦いなれ ていた。 「そうだ、思い出したっ」 戦いを見守ることしか出来なかったリリーは、突如叫んだ。 「ロガシス・・・どこかで聞いたことがあると思っていたけど、貴方はロガシス=レイ ラバースですね!?」 「え・・・!?」 リリーの言葉に、アムが小さく悲鳴を上げた。 対するロガシスは、ロイを動きを見つめたまま何も言わない。 「海上の狼、ロガシス=レイラバース・・・光の大陸の黒の海を行くもので、その名 を知らない船乗りはいない・・・もっとも恐れられた海賊の頭です。この姿は間違い ありません!」 「そんなの関係ない!」 リリーの言葉を聞いて身のうちに現れた畏怖の気持ちを遮るように、ロイは叫んで またロガシスに向かって突っ込んでいく。 そのロガシスの動きは、訓練時の父親の動きとよく似ていた。ロイの蹴りを交わし たその不安定な姿勢から拳を突き出し、それが交わされると今度は低い位置に 蹴りを放ってくる。確実に、彼は隙のある位置を狙っているのだ。それも、片手に 人質を捕らえたまま。 ようやく、ロイの拳がロガシスの肩を掠めることができたとき、彼の二の腕はロガ シスの左腕に押さえられてしまった。 「お前も、父親と同じように無鉄砲で予想を超えた動きをしたが・・・お前は弱すぎる」 耳元でロイにそう言って、彼は腕を振りほどこうとしていたロイの鳩尾に鋭い蹴りを 放った。 一瞬、ロイには何が起こったのかがわからなかった。衝撃が頭の中まで押し寄せて、 視界がブレたかと思うと、そのまま白くかすんでいく。痛みはその一瞬後に来た。 衝撃のあまり、彼は立っていられず床に崩れ落ちた。 白かった視界も、徐々に暗くなっていった。 「ロイ様ー!!」 アムの叫びも、もはやロイの耳には届いていなかった。 「・・・・・・英雄の息子とはいっても、この程度か」 倒れたロイを見下ろしながら、ロガシスは残念そうに呟いた。そして、やはり意識を 失っているルビエスを捕らえた鞭を解いて、肩に担ぎ上げた。 「お前達には、しばらくここにいてもらうことになる。余計な真似はしないことだ」 そう言い置いて、ロガシスはルビエスとともに部屋を出て行ってしまう。リリーとアム は、その様子を目で追うだけで身動き一つできない。 彼はドアを後ろ手で閉めると、かちゃかちゃと取っ手部分に何か細工を施してその場 を後にした。 ロガシスが視界から消えて、ようやくアムとリリーの緊張の糸が切れた。アムはロイ に、リリーはドアに駆け寄った。 「ロイ様、ロイ様!」 息はしているが、気を失っているようだった。アムの必死の呼びかけに答える気配 はない。 「だめだ・・・やっぱり鍵を掛けられてしまったようです。」 「・・・そんな!」 アムが肩を落としたとき、ロイの懐から白い生き物がひょっこりと顔を覗かせた。驚 きのあまり彼女は身を引いたが、それがロイの飼っていたレミングだとわかると、懐 から取り出して抱き上げた。 「この子、こんなところにいたのね」 「あ、レミング・・・・・・ロイ君が連れてたんだ」 「そうよ、どこかで拾ったらしいけど・・・」 アムは、なだめるようにレミングの毛並みを撫でている。まるでそうすることで、自身 を落ち着けるかのように。 「でも、よくさっきの攻撃で無事だったね」 「そうね・・・。・・・はっ、そんなことより、早く他の人たちに知らせないと!」 ロガシスが出て行ってから、まだ時間は大してたっていない。早く部屋から脱出して、 他の乗客たちに知らせなければならない。 ・・・・・・だが、彼らはまだ気が付いていない。 この部屋に待機していた船員達と廊下をすれ違ってから時間が大分経っているの にもかかわらず、船内で人々の動きがないということに。 そして、誰もこの場に駆けつけてこないことに―――。 |