7. 「これは剣の一部だ。本体はサイが持っていた。以来行方が知れぬ。」 以来、というのはおそらく神官戦争以来の意味であろう。ということは、そのときに本体 の剣はどこかへいってしまったか、最悪、消滅してしまったのである。 神官戦争―――そのとき、いったい何が起こったのだろう。 「そのし―――」 「・・・あと半日は掛かる。それまで、何か必要なものでも取ってきたらどうだ。」 レイドの言葉を遮り、神官は三人に言った。確かに、城でのいざこざで何も物資が供給 できていなかった。それにレイドはいいとして、ヴェレヌとシェルファ−ナをそのままの服 装で町をうろつかせるわけにはいかない。神官はおそらく正装のままだし、シェルファ− も王族用の衣装だ。 「そうですね。この近くに、エルフの村がいくつかありますから、そこで手にいれられて はいかがでしょう。大丈夫です、ちゃんと事情を話せば分かってくださる方ばかりですか ら。」 セレナの言葉に頷くレイド。 「半日で、戻るけど・・・あいつらは、もう襲ってこないんだろうか。」 「頭は始末したのだから、あえて不利な戦いはしてこないだろう。それよりも、早く行っ てくることだ。案内を頼む、セレナ。」 「分かりました。では―――」 セレナは二人を連れて、森の中を足早に歩き始めた。 独りになったヴェレヌは、ある光景を思い出していた。 はっきりと覚えているのは―――閃光。 己の剣とサイの剣。その二つが主の命に従ってぶつかりあい、澄んだ音と閃光を辺り に放っていた。 その音に混じって彼 女の声が聞こえる。 「―――どうして、どうしてなの!あの人は・・・。」 最後のほうはよく聞こえなかったが、何を言いたかったのかは彼には分かっていた。 しかし、それでも・・・・・・。 彼は彼女の言葉に耳を貸さなかった。そうせざるを得なかったのだ。 「・・・・・・。」 風が、吹いた。 そしてそのとき始めて、彼は頬を流れる冷たいものに気が付いた。 風が吹く。 まるで彼を叱咤するかのように。 ふと、レイドの言葉が脳裏に甦った。 「―――サイ様は死んだ。」 なぜだ。 彼は心の中で呟いた。 サイは死んではいない。それが事実だ。なのになぜ、そんな虚偽が流れているのだ。 ふと彼はひとつの可能性に気付いたが、すぐにそれは取り消された。 「―――いや、ないな。従官はそんなことは言わん。」 己に言い聞かすように、そう呟いた。 そして次に、セレナの言葉思いだした。 「―――私は真実を知っております。貴方様は、その者たちに利用されただけなのです 。」 そのことと、人々の間に流れている虚構とが重なった。 「・・・・・・お前なら、どう考える。」 魔法陣を描く手を止めて、ラムドにいるだろうかつての従官の姿を思い浮かべる。 親友であり、彼自身の天敵でもある―――淡赤色の髪、血色の瞳の男を。 三人が魔法陣の前に戻ってきたのは、陽・・・この世界では光の元素の塊であり、発生 源である一点のことを言うのだか・・・が光の大陸の方向に向かい始め、 黒陽・・・闇の 元素の発生源を言う・・・が闇の大陸方向から現れ始めた頃だった。あと半時もすれば 、闇の元素の支配する夜が訪れる。 「・・・・・・無事に戻ってきたな。」 「どうにか、皆を説得することができたよ。まあ、ほとんどセレナさんのおかげなんだけど ・・・」 「ヴェレヌさんの方も、準備ができたようですね。」 シェルファ−が、地面に描かれた見事な幾何模様を見て言った。 ともすればそれは、小さな家くらいが収まるくらいの大きさであった。一見、線のように 見えるそれは、羽虫程度の大きさの小さな文字の羅列である。魔法言語なのか、小さ なその文字はレイドが目を凝らして見てみても、何が書かれているのかは分からなか った。 「―――ならば・・・」 そう呟くと、神官は魔法陣の中央に立ち、両手で印を切りながら呪を唱え始めた。 それにつれて淡い光を放っていた魔法陣が、徐々に空間に浮かび上がるようにして魔 力をほどばしらせた。辺りが暗いためか、それは幻想的とも言える光景であった。 その最中にあるヴェレヌの姿は、見るものに畏怖の念を与えるには十分である。 「・・・ディ・アスティジェナ」 その締めくくりの言葉とと もに、光が神官の組んだ印の一点に集中し、次の瞬間、弾け 散った。 音も衝撃もないが、その光景に三人は思わず身構え、目をつぶった。 |