5. 「・・・・・・無理な頼みだな。できるものならそうしたいが。 しかしあいにく50年という 時間を掛けてもそれは見つからなかった。」 「何をおっしゃいます。貴方様には、従官が付いていらっしゃるはずです。」 「取り込 み中申し訳ないけど・・・どうやら兵力はいくらでもあるらしい。」 レイドは剣を構えながらセレナに話しかける。 気付いてみれば、彼らの周りは闇エルフの集団に取り囲まれている。セレナはもう一度神 官に頭を下げると、立ち上がり詠唱の準備をした。 「切っても切っても湧いてくるみたいだな・・・・・・いったいもとはどこにあるんだか。」 レイドは他人ごとのようにそう呟いて、切りかかっていった。ヴェレヌとセレナ、二人の術が 虚空を駆け抜ける。 その戦いの最中、シェルファ−ナは柱の陰で考えごとをしていた。先ほどから頭を付いて はなれない、”忘れ物”についてを・・・。 「シェルファ−、後ろだ!」 「・・・え?」 どうやら、主を失った彼らはシェルファ−ナまでも手にかけるつもりらしい。もはや彼らには 、神官とその仲間に対する憎悪しかなかった。次の瞬間に、シェルファ−を切りつけようと した闇エルフの首が飛んだのは、”黒いもの”のせいである。彼女はその光景に思わず自 失しそうになったが、誰かの呼ぶ声に我に返った。 回廊の遥か向こうの方に、淡い光が満ちている。幸い、そちらの方に闇エルフの姿はな い。彼女は無意識の間にその光の方に駆け出していた。 「スパ−ク・キル!・・・シェルファ−ナ様、どちらへ!?」 初めに彼女に気が付いたのは、セレナであった。 呪文を唱え、残りの何人かを地に這わせてからのことである。 「シェルファ−、どこへ行くんだっ!」 最後の一人を切り伏せ、レイドは抜き身の剣を下げたまま走りだした。少し遅れて、ヴェレ ヌとセレナも後を追う。 回廊の突き当たりにある階段を降り、右に少し行ったところに彼女はいた。目の前に、他 よりも豪奢な作りの大きな扉がある。 「・・・ここは、フェルディ−ン様の居室・・・。」 「ここに、なにかあるのか?」 シェルファ−は、何も言わずに扉に手を当てた。 「鍵が掛かっております。素手で開けることはできません。」 セレナの言葉が聞こえているのか、いないのか。彼女はゆっくりと扉を押す手に力をこめ た。 「―――開くかもしれんな。」 そう、神官が呟いたとき、扉が音もなく後退した。 「鍵は掛かっているはずなのに・・・どうして・・・」 「鍵が自ら開いたということだな。」 「自ら・・・まさか、フェルディ−ンの力がまだ働いているというのか。」 「恐らくな。彼女がシェルファ−をここへ呼んだのだろう。」 部屋の中へ、彼女は歩みを進める。 部屋の中は、予想以上に明るかった。というのも、部屋の中のいたるところに燭台があり 、そのすべてに灯りが点っていたからである。目の前・・・すなわち部屋の奥には玉座が あった。おそらく、フェルディ−ンがそこに座り、50年前までこの国を治めていたのだろう 。 よく見ると、その玉座には何かが置いてあった。近づいて見てみると、それは一つのペン ダントだった。 「・・・ペンダント?・・・フェルディ−ンのものかな。」 シェルファ−ナはそれを手にとってみる。ヘッドの部分はロケットになっていて、開けてみ るとそこには既に2枚の絵が入っている。 左側の女性は、おそらくフェルディ−ンであろう。そして右側にあるのは――― 「ということは、これはシェルファ−ナか。」 レイドは絵をのぞき込んだ。緑色の髪をした赤子の絵。どことなく、シェルファ−ナに似て いる。 彼女はロケットを両手で握り締め、瞳を閉じた。 『――― フェルディ−ン様の加護がありますよう・・・。』 「用が済んだのなら、もうこれ以上奇襲を受けてやることもあるまい。お前はどうするのだ。」 神官は、セレナに向かってマスクを下ろしながら言った。 「私は、フェルディ−ン様に仕えてきました。その意志は昔も今も変わりません。」 セレナはかつての主の面影のある娘に視線を移した。 「貴女様さえよろしければ・・・。」 その彼女に、シェルファ−は深く頭を下げて言った。 「先ほどはありがとうございました。これからも、よろしくお願いします、セレナさん。」 その二人を見守っていたレイドが、思い出したように言う。 「―――そういえば、まだちゃんと名前を尋いてなかったね。 俺のことは?」 「いえ、まだ。」 「俺は、レイド=フレデリクス。見ての通り、単なる剣士だ。」 「レイドさん・・・・・・噂に聞いております。剣の腕はヘムンブルグ一とか・・・。いい人に巡り 会われましたね、シェルファ−ナ様。」 セレナがそう微笑むと、シェルファ−はレイドと神官をちらりと見て、否定した。 「私の名は、セレナ=マクガイアといいます。」 「・・・彼らと同じ、闇エルフなのか?」 「いえ・・・」 「先ほどの術を拝見するに、そうは見えんな。」 言葉を濁す彼女に、ヴェレヌは言う。 「私は、エルピス族の生き残りです。ご存知ではないと思いますが。」 「エルピス族・・・もしかして、神の大陸を追われたといわれる、伝説の?」 驚くレイドの声に、セレナもまた目を丸くする。 「・・・随分と博識な方ですね。」 「物好きなだけだよ。城の蔵書庫で前に読んだことがある。なんでも、神に最も近い種族 だとか。・・・あ、でも一番近いのは神官だよね。」 レイドの言葉に、セレナは無言で頷いた。 その瞳には、暗い光が宿る。 「―――そんなことはどうでもいい。早くここを出るぞ。」 敵の気配はなかったが、誰にともなくヴェレヌはそう言った。 |