4. 「一説では、それを止めるためにサイ様は貴方のもとを訪れなさったとか。まったく 貴方が何を考えているのか、私には皆目見当がつきません。」 「私も貴様が何を言っているのかが理解できん。そしてただ一つ言えるけとは、これ以上 の話し合いは無用だということだ。」 神官と男の話しは平行線に終わった。男は邪悪な笑みを浮かべる。 「我らの怒り、その身に受けるがい い。―――ヴェレヌ!」 男が吠えた途端、ヴェレヌの体躯を数多の魔力を帯びた糸が捕らえた。そのままの状態 で、神官は身動きが取れなくなってしまった。どうやら男は神官にのみ狙いを定めたらし く、レイドの方は無事であった。 しかし、彼は神官を助けるべきかどうか迷っていた。心中の疑惑の渦は、その大きさを増 しつつある。それを見兼ねたのか、硬直した彼に神官は静かに伝える。 「レイド。」 神官は、初めて彼のことを名前で呼んだ。 レイドは目を見開く。 「お前は、自分の今なすべきことをしろ。」 そして、目だけを彼に向ける。 「―――行け。彼女ならこの上にいる。」 レイドは、神官と闇エルフとを交互に見やり、そしてすぐに部屋を出ていった。別に、神官 を信用したわけではない。彼は、約束を果たすことを何よりもまず優先したのだ。 ―――すなわち、シェルファ−ナの救出を。 駆けながらレイドは叫んだ。 「シェルファ−!!」 聞き覚えのある声を聞いたような気がして、彼女は目を覚ました。目の前には、女が一 人立っていた。 「やっと気が付かれましたか。早くここからお逃げください。」 その姿に見覚えはない。 「貴女は、誰なのですか?先ほどの男の人はどちらへ ・・・」 「あの男に関わってはいけません。彼は、間違ったことをしています。表向きは国を復活 させると言っていますが、裏ではこの闇の大陸全土の征服を目論んでいるのです。早く 逃げなければ―――」 彼女はシェルファ−ナの手を引いて部屋を出ようとしたが、当のシェルファ−がややため らっているため、歩みは 決して早くない。部屋を出ると、二人はすぐにエルフたちに囲ま れた。 「私の後ろに下がっていて。」 女はそう言うと、素早く魔法を唱え始めた。他のエルフたちも詠唱をしているが、同時に 印を切っているせいか彼女の早さの方が数段上だ。 そして先に完成させたのも彼女だった。 「スパ−ク・キル!」 彼女の手から電撃が生まれ、狙った相手そのことごとくに絡みつく。 女は再びシェルファ−の手を取り駆け出した。あとには、伸びたエルフたちのみが残され た。 「シェルファ−!」 レイドが彼女と出合ったのは、ちょうど階段を上りきった所だった。そして一緒に見知ら ぬ女がついていた。 「無事でよかった。・・・・・・その女性は?」 レイドの問いには、本人が答えた。 「私はセレナ=マクガイアというものです。早くここから逃げてください。詳しい話は後で いたします。」 女の言葉に、レイドはシェルファ−と視線を交わす。 「まあ、取り合えずここを出たほうがいいってことは俺にも分かる。けれど、下の階にヴェ レヌがいる。放っておくわけに もいかないだろう。」 「・・・ヴェレヌ様が、ここに来ていらっしゃるのですか?」 セレナのその言葉に、憎しみの感は微塵もなかった。 抜き身の剣の峰で神官の顎をすくったのは、言うまでもなくあの闇エルフ。 「噂に違わず美しい・・・。傷を付けるのは惜しいですね。」 ヴェレヌは男を睨みつけたまま何も言わない。 「ご自慢の顔を傷付けられたくはないでしょう?」 「自慢になどならん。」 言外の意味も知らぬ気に、ヴェレヌは言った。 すると、男は声高らかに笑う。 「随分と謙虚なことですね。・・・否と答えるのも、その謙虚さゆえですかな?」 神官は黙って男を見据えた。 「―――少し口が過ぎるな。」 男は剣を下ろした。 口元に笑みを浮かべたそのままで。 「・・・では、消えて頂きましょう。」 男は剣を振り上げた。 ―――が下ろせない。振り返ってみる と、”黒いもの”が剣を阻んでいた。 男が気をそらしたその隙に、ヴェレヌは宙に跳躍していた。男が話しをしている間に、”黒 いもの”は魔力糸を全て断ち切っていたのである。男は驚愕の表情を神官に向けた。 「―――剣司の力、初めて拝見しましたよ。まさかここまでとは・・・。」 男の首が跳んだのは、その次の瞬間のことだった。 「―――安らかに眠れ。」 無感情な顔で遺体を確認したヴェレヌは、部屋を後にした。 その彼とレイドたちが出合ったのは、それから間もないことだった。 「ヴェレヌ、あの男は?」 「断罪した―――その者は?」 神官は、レイドの背後に控える女に視線を移した。 セレナは、一歩前に出るとその場に跪いて言った。 「私は、フェルディ−ン様の身の回りのお世話をさせていただいていた、セレナと申す者 です。お待ちしておりました、ヴェレヌ様。」 「・・・この者たちとは無関係のように見えるが。」 「これは全て、ある者たちの陰謀。私は真実を知っております。貴方様は、その者たちに 利用されただけなのです。」 言って女は頭を上げた。その表情は真剣そのものである。 「一刻も早く、安全な場所に身を置かれますよう。」 |