3. 「―――ここは、いったいどこなんだ?」 レイドのその質問に、ヴェレヌははっきりと答えた。 「闇エルフ、フェルディ−ン=シャド−の城の一室。50年前にこの国は滅びた。」 その言葉に妙な違和感を彼は感じた。 そして新たな声は、ふいに後ろから掛けられた。 「そう・・・50年前に。」 二人は同時に声の主を見 つけた。 「覚えているだろう?貴方も忘れるはずもない、あの神官戦争のことを。」 男はおそらくヴェレヌに語りかけているのだろう。対するヴェレヌは無言で見つめ返すだ けだ。 「貴方たちだけで争うのは勝手だが、我々まで巻き込むのはやめてもらいたかった。お かげで我々の国は滅びの道を歩んだ。始末はつけてもらいますよ。」 「―――始末?」 「時間は元には戻せない。でも、力なら―――」 男は指を鳴らした。それを合図に、数人の闇エルフたちがレイドたちのいる部屋へ入っ てくる。 レイドは身構えた。 「力なら、提供してもらえそうですね。神官の魔力は神にも匹敵するとか―――」 男は神官に歩み寄った。その顔には、邪悪な笑みが浮かんでいる。 「もし、貴方に謝罪の意があるのなら、我々に従ってほしい。」 それに対し、彼は突き放すように答える。 「断る、と言ったらどうする――― ?」 「話し合い以外の手を使わせていただきます。そして無論、相棒の方も・・・」 「冗談ではない。」 男の言葉を遮って、神官は言う。そして、首もとに弛む黒いマスクで顔の下半分を覆った。 「―――ほう、それはどちらに対しての言葉ですか?」 男の片方の眉が吊り上がる。ここで言うどちらとは、もちろん話し合 い以外の方法を使 うことと、レイドを巻き込むことのことである。 「無論、両方だ。」 そして神官はレイドの方を一瞥してつけ加える。 「それに、ここにいるお前たちだけでは我々の相手にはならん。」 「随分と余裕ですね。さすが魔神官と呼ばれるだけのことはある。」 「―――なんだと。」 その彼の言葉に、異常なほどの強い感情がこもっていたことに、男が気付いたかどうか 。レイドは、神官のいつもと変わらない顔を見つめた。 「では、もう一度だけ聞きます。手を貸しては下さいませんか?」 神官は、ただ無言をもって返した。 その瞳は、群青の輝きを増している。 「―――そうですか。では、やるしかなさそうですね。」 「戦いの前に、聞きたいことがある。」 男が命令を下そうとする前に、レイドは尋いた。 「シェルファ−ナはどうした。彼女は無関係だ。」 男は彼の方に向きな おる。 「シェルファ−ナ様は、我が女王、フェルディ−ン=シャド−様のお嬢様で在らせられる。 彼女は、我々の元にお戻りくだされなければならない。我らの新たなる国の為に。」 横目で男は神官をねめつけた。 「そして、ヴェレヌ殿に助力してもらわなければならないのですよ。」 その言葉を合図に闇エルフたちは 一斉に術を唱え始めた。そこへ向かって、レイドが短 剣を投げつけ、さらに長剣を構えて切りつける。神官は呪を唱えながら虚空に光る魔法 陣を描いた。 「スタ −・ダスト!」 術を完成させた闇エルフたちの声が唱和し、術が一人中央で動かぬ神官を襲った。 しかし――― 「ディ・モロディゴス!」 彼を中心として解き放たれた魔力の衝撃波が、闇エルフたちの石弾の術をあっさりと吹 き飛ばし、彼ら自身をも地に這わせた。もはやそのまま動く気配はない。 「―――なるほど、一撃で片付けるとは。これはますます欲しくなりましたね。貴方の力・ ・・いえ、貴方がたと言ったほうがいい。」 そう言った男の視界には、短剣を鞘に収め、抜き身の長剣を左手に下げる金髪の剣士 ―――レイドがいた。男は少々驚いている様子だったが、神官は、まるで彼の力を知っ ていたかのように眉一つ動 かさない。その男の驚きの原因は、レイドが衝撃波を受け たのにもかかわらず、平然とその場にいることであった。いや、正確には、レイドは衝撃 波を受けては いない。受ける直前、彼は剣による風圧で自分の場の衝撃波のみを相殺 したのである。 「だてに、ヘムンブルクの騎士をやってたわけじゃないんでね。」 「ほ う、では手配書にあったヘムンブルクの凄腕の騎士というのは、貴方のことですか・ ・・。」 男の言葉に、レイドは顔をしかめ、ヴェレヌは双眸を細めた。 「・・・もう手配書が回っているのか。」 「手回しが随分と早いな。余程シェルファ−ナの存在は彼らに都合が悪いのだろう。」 「くっ・・・」 「どうです?」 男はレイドに話しかける。 「我々に貴方の力を貸していただけませんか。」 「―――ざけるな。」 しかしそう答えたのはヴェレヌであった。 「お前たちがどうなろうと、ヘムンブルクがどうなろうとそれは私の知ったことではない。 だが、それに我々を巻き込むのは理にかなわん。」 「どういう意味ですかね。」 「この国 が滅びたことと、神官戦争は無縁だということだ。」 その彼の言葉には、強い意志が含まれていた。 「―――またまた。私はちゃんと知っているのです。貴方がフェルディ−ン様をさらったと ころを。」 「・・・・・・。」 「そして貴方は女王様を、ヘムンブルクに売った。・・・人間の貴方はご存じないことと思 いますが。」 その言葉が自分に向けられていることに気付いて、思わずレイドは神官を振り返った。 レイドは初めてヴェレヌに会ったときから彼のことを疑っていた。そしてそれは今でもさほ ど変わらない。 彼の心の中では、いよいよ疑惑が渦を巻き始めていた。 |