15.

カーテンの隙間から差し込む陽光に目をしばたかせながら、シェルファーは大きく伸びをし

た。上半身を起こしてみて、そこがいつも自分のいた部屋ではなかったことを、改めて悟

った。

ファルシオンの話を聞いてから、彼女はすぐに寝ってしまった。なんだか長い夢を見たよう

な気もしたが、彼女にはそれがどんな夢だったかは思い出せなかった。

ふと、レイドのことが気になって、彼女は着替えを済ませて身支度を整えると、ドアをそっ

と開けて部屋の外に出た。

ちょうどそのとき、レイドが自分の部屋に戻ろうとしていた。

「おはようございます、レイドさん。随分お早いんですね。」

声をかけられたレイドは、少し戸惑ったような表情を一瞬見せたが、すぐにもとの穏やかな

表情に戻り、彼女に挨拶を返した。どこかへ行っていたのか、服は昨日の夕食時に見た室

内用のものではない。

「ああ、おはよう、シエル・・・」

「どこかへ行っていらしたんですか?」

「うん・・・まあね。」

いつもと変わらぬ様子だが、どこか憔悴の色が見て取れた。そのぎこちない様子に彼女は、

昨夜彼の父親から聞いた話を思い出した。確か、アリアは黒門近くの共同墓地に眠っている

と、彼は言っていた。そして、レイドはそこへ訪れたことはないということも。

アリアの墓ができるその前に、レイドは逃げるようにこのメーレンを去っていた。

それまでずっとこの街で育ってきた彼が、ひとり、ヘムンブルグへと赴いた。見知らぬ土地で

の日々を、彼は、今までどんな思いで過ごして来たのだろう。

それを想像することなど、シェルファーナにはとてもできなかった。

ふと、彼女は初めてレイドを見かけたときのことを思い出していた。

シェルファーナを見かけたその時の、彼の表情の変化を。

「アリアさん・・・ですか。」

その彼女の言葉に、もう一度レイドの顔に動揺の色が走る。

「・・・・・・弟に・・・聞いたのか?」

「いえ、ファルシオンさんが・・・話してくださいました。」

「そうか・・・」

「あの、レイドさん。」

彼女は迷いながらも、レイドに尋ねてみる。

「あとで・・・私も、アリアさんの供養に行かせていただけないでしょうか・・・」

怪訝そうな顔をするレイド。それを見て、シェルファーはやはり聴くべきではなかったと後悔

した。

「好きにしていいよ。今日は、特にすることはないから・・・」

そういうと、彼は自分の部屋へと入っていってしまった。



朝食は昨夜と同じ大部屋で済ませたが、レイドも神官も何も話さなかったので、シェルファ

ーもなんとなく話しづらく、その場は気まずい雰囲気に包まれていた。レイドの家族たちは、

そのことを特に気に留めた様子はなかったが、彼女はなんとなく気になって、食後に彼らの

部屋を訪ねた。

しかし、ノックをしても誰も返事をするものはなく、扉の鍵も閉まっていた。

「書庫・・・かしら・・・」

昨夜、自分が出て行ってから、書庫でいったい何があったのだろう。二人はどうして、朝食

の席で一言も話さなかったのだろう・・・

事情を・・・訊かなければならない。知らなければならない。

シェルファーは、書庫のある地下へと降りていった。



重く頑丈な扉を押し開けると、視線の先に黙々と本を読み続ける神官の姿があった。扉の開

く音に、彼は目線を上げた。

「ここにいらっしゃったんですね。・・・レイドさんは?」

「ここには来ていない。」

その、声の硬い調子に、彼女はなにかレイドとあったのか、聞いてみた。

「・・・いや。たいしたことはない。なにか他に用があったのではないのか?」

「いえ・・・その・・・」

ヴェレヌがあまりにも無表情なので、彼女は言いよどんでいた。

その様子に、彼は読んでいた本を棚に戻すと、つかつかと歩きながら言った。

「・・・・・・花が、必要だな。」

驚いたように顔を上げるシェルファーナに、彼はもう一度念を押した。

「墓参りに、行くのだろう。」

驚きとうれしさに、彼女は明るく返事を返す。

シエルは、レイドにもう一度断ってから行こうと思ったが、結局彼に会うことはできなかった。



レイドが姿を現したのは、日もすっかり暮れた頃のことだった。

墓参りを済ませ、様子見もかねて市内を回ってきた2人は、家の門のところで彼と出会った。

「レイドさん、どちらへ行っていたんですか?探したんですよ!」

「うん・・・ちょっとね。」

そのまま何も言わずに、彼は二人を中へと促した。シェルファーは、勝手にアリアの墓参りに

行ってしまったことに腹を立てているのかもしれないと思い、レイドのことを直視できないでいた。

しかし、それはまったくの彼女の取り越し苦労であった。レイドの部屋に入り、扉の鍵をしっかり

かってから、話の本題に彼は入った。

「街の案内をできなくて申し訳ない。でも、今日はこれを手に入れるので精一杯だった。」

そう言って彼がテーブルの上においたのは、3枚の券・・・ラムド行きの船の乗船券だった。

「明日、港から朝一番にラムド行きの船が出る。それに、どうにか乗れそうだ。船に乗れれば、

2日でラムドに着くことができる。」

彼の目は真剣で、その話を聞く2人もまた真剣だった。

「手配書は、幸い来ていないみたいだから、多分ラムドはまだ安全だろう。」

「2日・・・か。」

呟いた神官の言葉に、微かな不安をシエルは抱いた。

そして、それがこれから起こることを予感したものであることなど、彼女には知るよしもなかった。





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