勢いよく開いたドアから飛び出してきた男を交わす余裕は、私にはな

かった。

私も男も、そのまま地面に尻もちをつくような形となった。

「痛って−・・・あ、 ごめんなさい。ちょっと急いでたから・・・。」

強く打った右足をさする私に、彼は右手を差し出した。

見上げてみれば、それは銀髪の凛々しい少年であった。

彼は手を取って私を立ち起こすと、今しがた飛び出してきた扉を閉め

てしっかりと鍵をかけた。

「君は昨日来た人だったね。はじめまして。僕はタプラス。5年くらい

前から、姉のレイム−トといっしょにここに暮らしている。君は、どうし

てここへ来たんだい?」

私は、ジェニライやロキに話したようにここへ来た目的を彼に話した。

「へえ〜。そういう目的でここへ来る人っていうのは珍しいな。」

彼の言葉に、私はそうかもしれないと頷いた。

実際、いままで話しをした人の中に私と同 じような目的で来た人は

いなかった。もっとも、私と話しをした人はまだ樹民のほんの一部だ

からなのかもしれないが。

それはそうとして、私はさきほどから気になっていたことを彼に聞い

てみる。

「・・・え、耳のアクセサリ−?・・・ああ、君は海羅を見るのは初めて

かい?」

カイラ、という言葉に私は首を傾げる。

「僕たちは、海を住み家とする海羅という種族なんだ。この耳は、水

の中でできるかぎり多くの音を集めるのに都合がいいんだ。ほら、シ

−・ドラゴンとかもそうだろう?」

私は、シ−・ドラゴンを見たことがない・・・というよりも、海そのものを

見たことがなかった。こうして旅に出たこと自体、初めてなことなので

ある。

要するに、私はあまりにも外の世界について無知なのだ。

そのことをそのまま彼に話すと、彼は微笑んで言った。

「気にすることはないよ。僕も 似たようなものだから・・・。これから行

ってみればいいんだ。―――そうだ、今度、僕たちの国に来てみな

よ。きっと気にいると思うよ。」

私たちは歩き始めた。



・・・そういえば、私はタプラスがここへ来た目的を聞いていなかった。

「え・・・?僕がここへ来た目的?・・・うん、ここじゃあなんだから、樹

海に入ってから話すよ。ところで、君は何で戦うんだい?」

言われて私は少し戸惑った。

ナイフの使い方はクリスから聞いているけれども、実際にそれで魔

物と戦っ たことはない。

「あ、そうか。じゃあ、金属補強したグラブを使うといいよ。ちょっと取り

にいってくる。」

タプラスは、今まで歩いてきた道を駆け戻っていった。



―――それにしても。一人になった私は樹郷を見回した。

―――何と様々な人がここに住んでいるのだろう。

そしてその人々の誰もが、一様の理由でここへ来たわけではない。

ここは、何と不思議な場所なのだろう・・・・・・。


深く―――深く息を吸い込んでみる。

突然、私は自分が世界の中のほんのちっぽけな存在であると思い、

そしてそのことはひどく寂しく、同時に恐く感じられた。

なぜなのかはわからない。

ひとりでいるからなのだろうか。

―――いや、今ま で私はずっとひとりだった。

なのに私は、そんなことを考えたこともなかった。ここが樹海だから

だろうか。

・・・・・・樹海。

その言葉は私の口の中で溶けていった・・・。






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