| しばらく私は、道なき道を勘で歩き続けた。 苔むした岩をのぼり、畝と化した樹の根を越え、橋となった倒木を渡 った。 けれども、いつまで歩いても何も見えてはこなかった。 どうやら、私は道に迷ってしまったらしい・・・。 そしていつしか陽は傾き、森の中が橙色に染まり、冷たい空気が辺 りに流れ始めた。 ―――樹民はいったいどこにいるのだろう。 私は疲れてその場に座り込んだ。 そを閉じ、傍らの木の幹にもたれた。 冷たい風が頬をかすめた。 木々の葉が風を受けて寂しげに揺れる音がした。 ふと、違う気配を感じて、私は辺りを見回した。 独りの男・・・が数歩先のところに立って、私の方を見ていた。 特異な衣装に身を包み、片手に杖を持っている。 長い前髪は片眼を覆い、頭からは角が2本生えている 。彼は、私の視線に気付いたのか、口を開いた。 「貴様が・・・。」 言葉の後ろの方は小声で聞こえにくかったが、多分私の名前を言っ たのだと思う。 初めて会ったのにもかかわらず、彼は私の名を知っている・・・・・・私 は驚いた。 いろいろ彼に聞こうとしたけれども、彼はきびすを返して歩き出した ので、私は立ち上がり、彼を追いかけた。 おそらく彼は樹民なのだろう。 慣れた道を行くように彼の歩みは軽やかで、距離は縮まるどころか どんどん開いていき、いつしか姿を見失ってしまった。 私は仕方なくまた歩き続け、そしてしばらくして、広場のように開けて いる場所にたどり着いた。 その先に、建物が見えた。 私は、知らず知らずのうちにその建物に向かって駆け出していた。 それは丸太を組立て作られた家だった。 これが樹民の家・・・なのだろうか。 家の窓という窓は閉まっており、中の様子を伺うことはできなかった。 私は入口を見つけ、扉の前に立った。 扉もやはり丸太でできている。 軽くノックをしてみた。 返事はない。 聞こえなかったのかと、今度はもう少し強くたたいてみた。 しかし、やはり反応はなかった。 誰も、いないのだろうか。 それとも、気付かないのだろうか。 いずれにしても、これ以上扉をたたくのは無意味だと思い、私は辺り を散策することにした。 ・・・・・・ next page>> |