いつもの皮袋を担いで、私は樹海を急ぎ足で歩いていく。

当てもなく足を運んでいるのだけれど、目的地は一つに決めてある。


―――きっと、たどり着ける。


確信があるわけではなかったけれど、でも、またスターサボテンには

会えるにちがいないと思えた。

見覚えのない樹海の道なき道。けれども、この前通った時とは違って

いる。乱立する木々が、少しも視界の邪魔にはならない。

・・・まるで、木々が私に道を開けているかのように・・・



そうして私は、3度スターサボテンと対面することになった。

私は、そこをそっと、けれども足早に通り過ぎ、聖域へと続くトンネルを

駆け抜けた。

自然と、胸の奥がどきどきとしてくる。

トンネルを出たところで、私はまぶしさのあまり目を腕で覆った。

目の前には、世界樹がやはり堂々と根を下ろしている。この樹は、ここ

に立ってからどれほどの歳月を過ごしているのだろう。


―――私たちの他にも、この樹に出会えた人はかつていたのだろうか。


ふと、やわらかな風に私の髪が揺れた。

振り返る私の視線の先に、一人の女性がいた。

その面影に、見覚えはあるのだけれど、何かが違う。


―――誰・・・?


そんな私に、彼女は優しく微笑む。

「こんなところに、何をしに来たの・・・?」

緑色の鮮やかな髪がふわりと揺れ、碧い瞳が玉のように煌めいた。

その女性の声と雰囲気から、私にはその人が誰なのかがわかった。

でも・・・。


―――ジェニライ・・・さん?


彼女はその問いには答えずに、ただ微笑む。

「樹民たちは、明日にはここを出て行くわ。貴女も、出て行くの?」

私は、袋の中から”秘宝”をとりだして、両手で彼女に差し出した。

「それは、英雄のもの。貴女のものよ」


―――私には、これを持つ資格なんてない・・・。

私は、これを世界樹に返しに来たんです。

これは、ここにあるべきものだから・・・


「ありがとう。でも、これは貴女に持っていてもらいたいの。」

彼女はこちらに背を向けて、世界樹を振り返った。

「私は、ここからすべてを見ています。」

そのまま彼女は、ゆっくりと歩みを進める。

「ここに、宝があるなんて言われるようになったのは、いつからだった

かしら・・・」

世界樹の幹に片手をついて、瞑目する彼女。

「樹海には、人は暮らせない。でも人々は集まるばかり・・・。そんな時、

私は子供たちを世界中に旅立たせたの。」

碧と緑と翠の光に包まれながら、その容姿が、”ジェニライ”から別の”誰

か”へと変わっていく。

「誰か、私たちを助けて欲しい・・・そう、願いながら。」

彼女は、私を振り返った。

背中に、透き通った翠色の翅のようなものが見えた。顔つきは彫り深く、

体つきはより華奢に、髪の色は虹色に・・・


彼女は、”人”には見えなかった。

”ジェニライ”でもない。

目の前に在る世界樹と同じように、大きく、優しい力を私は感じた。

「貴女は、私たちの恩人。樹海を救った英雄・・・」

歩み寄ってきた彼女の温かい手が、”秘宝”を持つ私の手を包む。

「だから、これは貴女に持っていてもらいたい。いつでも、私たちのことを

想っていて欲しいの。」

だから、と言って彼女は再びやわらかく微笑んだ。


・・・私は、瞳を閉じた。

すると確かに、私の両手に”樹海”が在る。

”世界樹”が、”彼女”が在る。

・・・木々の命の源が。


「私はここで、貴女を見守っています。今までも、これからも―――」





樹郷に戻ってみると、家々は壊されていた。

ジェニライが、樹民たちの間をせかせかと動き回っていろいろな手伝いをし

ている。

なかには、荷物を背負ってジェニライやリオンに挨拶をしていて歩いていく

人もいた。

私もなんとなくジェニライについてあちこちを回っていたけれども、陽が傾き

始める頃にはすでに、リオンとタプラス、そしてロキしか残っていなかった。

人の流れは早かった。

「じゃあ、僕らもそろそろ国に戻ることにするよ」

タプラスも、頃合いを見てそう言い、ジェニライとリオンにこれまでの礼を述

べた。レイムートもそれに習って礼を言い、頭を下げた。

結局、私はレイムートととは”災厄”に遭遇した時以来、顔を合わせていな

かった。だから余計に、このまま別れてしまうのは寂しく思え、私はレイムー

トに別れの挨拶と共にお礼を言った。

「・・・・・・。」

その時一瞬だけ、彼女の顔が明るくなったように、私には思えた。

けれどもすぐにもとの無表情な顔に戻ってしまったので、それは私の見間

違えだったのだろうか・・・。

そしてリオンも魔剣を背に去り、後はロキと私とジェニライだけになった。

「・・・僕・・・・・・まだ、ここにいたい。・・・お姉ちゃんは?」



―――私は・・・


ロキを残したまま、私はここを離れることができるだろうか?

「貴女は、ここを離れなさい」

迷う私に、ジェニライは諭すように言う。

「貴女には、貴女の旅があるわ。寂しいけれど、時々ここを思い出して、戻

ってきてちょうだい。私とロキは、ここで待っているわ。」

ロキはというと、彼女の言葉に少し寂しげな顔をしていたが、やがて小さく

頷いた。


「ここで・・・待ってる・・・」


私は彼に会釈して、きっと戻ってくると約束をした。

そして、ジェニライ。

「行きなさい。そして、世界を頼んだわ」

ジェニライではなく、”彼女”がそう私に告げる。



―――きっと・・・

私は頷き、二人に背を向けて再び歩き始めた。






                         ・・・・・・ to the next journey






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