| 辺りを見回してみても、特にこれといった物はなかった。 また、軽く小さな音がした。今度は、見失わなかった。 それは、真っ赤な木の実だった。手にとって見てみると、よほど水分 を多く含んでいるのか、見た目よりもずっしりと重かった。グラブをとっ て触れてみると、 滑らかで固い感触があった。 ふと、私は家の畑のマメトマトを思い出した。 ―――そろそろ収穫の時期かな・・・ もう、一月近く家に帰っていなかった。 旅に出たきっかけは・・・家の庭にある日生えていた、スターサボテン。 ここから、私の家までどうやって来たのだろう。 風に吹かれて来たのだろうか・・・ それとも、なにかに運ばれてきたのだろうか。 ―――コト。 また、実の落ちる音がした。今度は、もう少し遠くの方に落ちている。 ふと、気がついて見ると、その先の方にも赤く小さく光っているもの があった。 その、向こうにも。 私はひざに手をつきながら立ち上がり、荷物を手にとった。 ―――この赤い実・・・・・・。 赤い実を探しながら、上へと登っていくと、3つ股に分かれた場所へ 出た。実は、そのひとつの道の入り口に落ちている。 ―――もしかして・・・ 半信半疑ながらも、私は落ちている実を拾いに向かった。 この赤い実が、私を案内しているように思えてならなかった。 ・・・・・・そんなことは、おかしなことだけれども、いまの私には、そう いったまじないごとのような支えが必要だった。 歩いていくに連れて、グラブをはめた左手が、赤い実でいっぱいにな ってしまった。この実をどうしようかと、ふと、私は上を仰ぎ見た。 無数にのびるその枝の一本一本に、赤い実が点々と実っている。 私は、再び視線を手のひらへと戻した。 この実、一つ一つが、この、とてつもなく大きな樹から生まれた、命 なのだ。 群生したスター・サボテンも、家の庭に生えていたマメトマトも、みな 命なのだ。 そう思うと、私はこの実が、とてもいとおしくなった。 私は、赤い実を袋の中にすべて入れた。きっと持ち帰って、家の庭に 蒔こう。 いつか、このように大きな立派な樹となって、私の子供たちやそのま た子供たちが、私のように頂を見上げ登っていくことだろう。 そして 見る人すべてに与えるだろう。 深き静寂と 永久の安らぎと 柔らかな光と ゆるやかなぬくもりと・・・・・・ 流れる時を風とともに感じ そよぐ葉に萌しを想い たゆたう命の鼓動を覚え・・・・・・ 瞳を閉じても伝わる その脈動に身を委ねながら――― 私は、頂へと再び歩みを進めた。 ・・・・・・ next page>> |