| フェンリルの案内した道は、私が昨日歩いた道よりもずっと険しいも のだった。けれども、不思議と疲れを感じることはなかった。樹民たち と話しながら歩くの は楽しかったし、時間が経つのを忘れさせてくれ た。 そして陽が真上から射しこむ頃、私たちは聖域にたどり着いた。 闇に包まれていた時とは、また違った表情を見せている。雨が降っ たのか、茎に付いた露が宝石 のように煌めいていた。 「ここ・・・昨日来たところだ。」 驚きの声をあげたタプラスに、前を歩いていたジェニライもまた頷く。 どうやら、タプラスたちが来た場所も、ここだったようだ。 けれどもそうなると、世界樹 が見られなかったのはどうしてだろう。 その問いに答えたのは、フェンリルだった。 「ふさわしき者でなければ、世界樹への道は開けない。」 彼は、昨日と同じように杖でトンネルを示した。 「行くがよい。―――時は来た。」 口を開けたトンネルの奥は仄かに明るい。 群生するスターサボテンをなるべく踏まないようにしながら、聖域の 中心に近付いていった。 間の当たりにした世界樹は、陽の光のもとに見るとより強い力のよう なものを、私たちに感じさせた。 「すごいな・・・」 口々に、感嘆の声が発せられる。リオンは無表情に見上げているが 、タプラスはレイムートと感動を分かち合い、ジェニライは優しく私に微 笑みかけた。 「この樹の頂に、英雄の証があるはずよ。貴女にしか、たどり着けな いわ。」 改めて見上げてみると、頂は空にも届きそうなほどに高いことがわ かる。こんな樹をどうやって登っていけばいいのだろう。気が付いて みれば、周りの樹民たちは皆、私が登るのを待っているような顔をし ていた。 ―――私が、行かなきゃならない・・・ 使命感のようなものを感じ、何かが怖いと思った。 大地へ延びる根は、いままで見てきたどの樹の幹よりも太く、まるで 山道のように上に向かっていた。踏み出した私の右足に、大地より も暖かく、空気よりもやさしい感触が伝わった。 思わず振り返った私に、樹民たちが柔らかな眼差しを向けてくれた。 ―――無事に、たどり着けるのだろうか。 沸き上がってくる不安と緊張を、押さえ付けるように拳を握り、右足 に重心をかけた。 道は、幾重にも分かれていた。 蔦につかまってようやくたどり着いたところは、聖域を一望できる露 台のような場所で、道はそこで行き止まりになっている。 眼下には、タプラスたちが少し小さくなって見えていた。・・・どうやら、 先は自分が思っていたよりもずっと長いようだ。それでも他にどうしよ うもなく、私は革袋を背負い直して、来た道を引き返した。 行き止まりになって、引き返す・・・その繰り返しだった。 途中、目印を付けてみたけれども、無数にある道には、あまり意味を なさなかった。前進は後退とな り、一向に先へ進める気配がなかっ た。 ―――私じゃあ、たどり着けないのではないだろうか・・・ いつしか私は、そんなことを思い始めていた。 思い始めると、体ではなく頭が疲れを訴え始めた。 まるで長椅子のような形に延びた樹の幹に私は腰かけて、背を持た せかけた。 吹いたそよ風に、前髪がなびく。 瞳を閉じると、それが肌に心地よく 感じられた。葉が、風に揺れる音が清々しい。ふと、私は自分の家の ことを思い出した。近くに林があって、よくそこに遊び に行ったのを覚 えている。道に迷って帰れなくなったときにも、こうして風に吹かれて いた。こうしていると、疲れが癒えるように感じられる。そして、道が 開 けてくる・・・ ―――? ふと、物音が聞こえて、私は顔をあげた。 ・・・・・・ next page>> |