―――あ・・・。


そこにいたのは、久しく見なかったフェンリルだった。


―――でも、どうしてこんなところにいるんだろう?私を探しに来たわ

けでもなさそうだし・・・。


「ここは、聖域だ。」

私が気付くのを待っていたのか、フェンリルはそう言った。

「お前が私をここへ導いた。・・・樹海の主に会いに行くといい。」


―――主?


戸惑う私を、彼は促した。

「―――この奥に、世界樹が在る。お前が行かなければ、私もたどり

着くことはできない。」


―――どうやら、行かなければならないらしい。


グラブをはめて立ち上がる私に、フェンリルは奥にあるアーチを杖で

示した。

私が歩き出すと、彼も少し離れた後ろを歩き始めた。



アーチと思われたものは、ツル植物が巻き付いてできたトンネルの

ようなものだった。周りに光る植物があるのか、トンネルのところだ

け、夜の闇に浮き上がって見えた。

その中に、私は足を踏み入れた。

私が一歩歩く度に、足元から光の粒がひとつ、宙に舞った。

掌にとって見ると、それは小さな虫だった。

・・・どうやら私の歩く振動で、飛び去っているよう だ。


―――ごめんね、ちょっと通らせて・・・。


虫は指で少しつつくと、再び飛んでいった。

トンネルを出てみると、私の目の前には一本の樹があった。


―――こんな大きな樹、初めて見るわ・・・。これが、世界樹なのね。


根本から、先端まで。

見上げることが、できない。

頭を精一杯そらしても、その先端の一葉を見ることはできなかった。

「―――秘宝は、あの頂点にある。」

フェンリルは言う。

けれども私は、秘宝が欲しくてここへ来たわけではなかった。

ましてや、世界樹に登るなど、私にはできそうにない。

そのことを告白する と、フェンリルは真っ直ぐに私を見つめて言った。

「―――お前は、ここが好きか?」

突然の問いに、私は戸惑ったが、嫌いではないと答えた。

「樹民が・・・いや、人がここへ来て、10数年。時が経つにつれて、樹

海は荒れる。樹々は、この事態を回避するために、使者を使わして

英雄を召喚した。」

フェンリルの言葉を聞いているうちに、なぜか私は、妙な胸騒ぎを覚

えていた。

「―――英雄に秘宝を託すことで、樹民をもとのところへ返すことが

できる。そう、世界樹は考えた。」


―――英雄?


「そしてお前が導かれた。―――お前は世界樹に選ばれた。」


―――よく・・・わからない。


あまりにも急なことで、私には彼が何を言っているのか分からなかっ

た。
フェンリルは続ける。

「使者は人とは限らない。お前を樹海に導いたものが、使者だ。」

ある日、偶然庭で見つけたスターサボテン。

私が気付かなければ、おそらくずっとそこにあったことだろう。

それに気付くことが、英雄の条件だったのだろうか ・・・

そう考えてみて、私はその考えを否定した。

それは、あまりにも自分に都合のいい解釈だし、英雄になるための

条件は、そんな性質のものではないように思われた。


―――単なる、偶然だよね。


私は、そう考えてみることにした。

そしてフェンリルに、今は世界樹に登るつもりがないことを告げる。

「・・・なぜだ?登り遂げる自信がないのか?」

責めるよりも、むしろ問うような口調で彼は言った。


―――私は、ここまでひとりで来れたわけではない。クリスやジェニラ

イ、リオン、タプラス、レイムート、、ロキそしてフェンリル。皆がいたか

ら、私はここ に来れた。だから私は、最後まで皆と一緒にいたい・・・。


「お前がそう望むなら、そうするが良い。」

そう言って、彼はトンネルの向こうに消えてしまった。


―――待って、樹郷へはどうやって帰ったらいいの?


大切なことに気が付いて、私はフェンリルの後を追ったが、トンネル

を抜けた私の視界に、その特異な姿は既になかった。


そして。

不思議なことに、そこは夜の闇に包まれた樹郷だった。





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