それまで沼と化していた大地は、厚い氷に閉ざされていた。

滑らないように慎重に歩いて、先ほどのところへたどり着いた私を待

っていたのは、銀色の髪をした一人の女性だった。

その顔が、なんとなくタプラスに似ている。


―――この人が、レイムートさん。


けれども彼女は周りの安全を確かめると、そのまま何も言わずにどこ

かへ行ってしまった。


―――・・・何か話してくれてもよかったのに・・・やはり、一人で戦わ

せてしまったのは、悪かったのだろうか。


彼女の去った方を、そんな気持ちで見ていると、後ろの方で私を呼

ぶ声が聞こえた。

振り返ってみると、それはロキに呼ばれたジェニライたちだった。

しかし、そこで安心してはいけなかった。


―――ここはもう、大丈夫・・・


そう言おうとした矢先 、地面がまた激しく揺れた。

”災厄”は、どうやらそんなに生易しいものではないらしい。

次々と、氷の障壁が壊されていく―――

タプラスが私に駆け寄り、ジェニライが呪文を唱え始め、リオンが剣を

構えた。

「こっちへ!」

タプラスが、手を引いて私を安全なところへ連れていってくれる。

ジェニライの足元に緑色に光る円陣が見えた。

「招かれざる者よ、光と共に消えなさい!」

彼女の叫ぶ声が聞こえ、辺りが緑色の光に包まれた。

衝撃はなかったけれども、 何かがきしむような音が、私の耳に届く。

それは、こう言っていた。


―――イケニエヲ、ヨコセ




広場へ行くと、ロキを含めた樹民たちが、心配そうな顔をして待って

いた。

「お姉ちゃん、大丈夫だった?」

ロキが、私たちにそう尋ねると、タプラスが代わりに頷いて答えた。

「多分、大丈夫だと思うよ。ジェニライさんの精霊魔法が効いていた

みたいだから。」

胸をなで下ろすロキを見て、私もようやく安堵した。

けれどもまだ興奮が覚めたわけではない。

・・・今夜は、眠れない夜になりそうだった。



次の日の朝、私は辺りの騒々しさに目を覚ました。

木枠の窓をそっと開けると、人々の話し声がはっきりと聞けた。

「タプラスが見つけたんだってよ、聖域への道を!」

「―――本当か!?」

「今朝からジェニライさんとリオン様が、タプラス達を連れて様子を見

に行ったらしい。」

「へぇ。ようやく秘宝にたどり着けたのか。」

・・・・・・どうやら、秘宝の手掛りがつかめたようだ。

秘宝が見つかれば、人々が樹海にいる理由がなくなるだろう。そう

なれば、樹海はもとの静けさを取り戻すことができる。

・・・けれども私は、まだスターサボテンの群生地を見つけてはいなか

った。


自分ひとりで、皆が去ったこの樹海を探索できるのかな・・・・・・

私はとても不安になってしまった。



そして、私はひとつ決心した。



今日は、ひとりで樹海を歩いてみよう。



大分手に馴染んできたグラブに手を通し、革の袋に少し多目に食糧

を詰め込んだ。

これで、準備は大丈夫。

私は窓を閉め、扉を閉めて鍵をかけた。


―――行ってきます。

小声でそう呟いて、私は樹郷を後にした。






                         ・・・・・・ next page>>






[Back]          [Top]