樹海での生活はさして退屈ではなかった。

だから、毎日は飛ぶように過ぎていった。


そしてそれは、樹海に来てから10日ほど経ったある日のことだった。

いつものようにタプラスたちと探索から帰ってきて、夕食を済ませた

あと、私は、ジェニライの家へと一人歩いていた。

樹々の間から時おり煌めく星が麗しい。

流れる澄みきった夜気が心地よい。

ゆるやかな夜の訪れを感じていた私は、目の前にたたずむ人影に気

が付いた。―――ロキだった。

「・・・あ、お姉ちゃんも散歩?」

私は、ジェニライの家に戻る途中であることを彼に告げた。

「お姉ちゃんだったら、もし樹海の宝を見つけたらどうする?」

―――宝。

そもそも私はそれ欲しくてここへ来たわけではない。

だから、自分が宝を見たときのことなんて、これっぽっちも考えてい

なかった。・・・というよりも、むし ろ興味がないと言ってもいい。

私は逆に、ロキに同じ質問をしてみた。

「・・・うん、僕は・・・僕は、”災厄”を消して欲しいんだ。」

―――災厄。そういえば、この前も同じようなことを言っていた気が

する。

「”災厄”はね、何十年かに一回、生け贄を要求するんだ。それで、

今回は僕が・・・」


―――”災厄”は、生き物なのだろうか?

だとしたら、何のために生け贄なんかを欲しがるのだろう?

様々な疑問に首を捻っていると、ロキが微笑みながらそのすべてを

少しずつ教えてくれる。

「”災厄”は、生きているんだよ。村の長老は、災害を司る邪神だって

言ってた・・・。”災厄”は、はっきりとした形を持っていないんだ。だか

ら、いつも 違った形で、僕の前に現れる。・・・どうしていけにえを求

めているのかは、僕にも、村のみんなにも、わからないんだ。でも、

はっきりしているのは、”災厄”に取り込まれたら、二度と元いたとこ

ろには帰れないということ・・・」

最後の方の彼の声は、かすれていた。


ふと、その時のロキの顔が、何かに疲れたように見えたのは、私の

考えすぎだろうか・・・。

そして異変は、何の前触れもなしに起こったのだった。



微かに鳴いていた虫たちが、ろうそくの炎が消えるように聞こえなく

なってしまった。

辺りを流れる風が、妙に生温かった。

その異変にロキも気付いたのか、顔をこわばらせていた。



最初に知覚したのは、轟音だった。

続いて吹き上げられた土砂に、飲み込まれそうになって初めて、私

は何が起こったかを理解した。


何かが、土の中から飛び出したのだ。

・・・といっても、それが何なのかはわからない。

「―――とうとう、ここが・・・」

土砂から逃げるロキは、絶望的な口調でそうつぶやいた。

―――それじゃあ、これが”災厄”なの・・・!?

私の前を逃げるロキの体が、沈んだように見えた。


気が付いてみると、いつの間にか周りの土が泥・・・というよりも沼の

ようになっている。しかも、足が底に届かない。

みるみるうちに、私もロキも沈んでいった。

なんとか泳いでもがいて、近くの家の壁をつかもうとしたけれども、グ

ラブをはめたままではうまくいかない。

ロキもまた壁をつかもうとしていたが、その家自体がぬかるんだ地面

のせいで傾き、沈みかけていた。

私は、必死に知っている名前を叫んだ。

もう、自分達だけではどうにもならない。

「お姉ちゃんっ!」

叫んだロキの方を振り返ると、壁につかまった彼に向かって泥の塊

がゆっくりと降下しているのが見えた。

その泥が、生き物の口のように見える。

けれども私には、彼の名前を叫ぶことしかできなかった。

私は、何もできない自分が、ただ悔しかった。



絶望に目を閉じたその時―――

奇妙な声と冷気に、私は顔を上げた。

瞬間、大地が凍りつき、”災厄”もその動きを止めた。

私は氷から脱出すると、ロキに向かって駆けた。

幸い、怪我を しているわけではないようだった。

手を引いて這上がるのを手伝うと、彼はそのまま私の手を引いて駆

け出した。

「”災厄”はまだ生きてる。―――レイムートさんの術で、何とかなる

といいんだけど・・・・・・とにかくみんなに知らせないと。」

彼は、広場に向かっているようだった。

後ろの方で、女の声が聞こえた。

「ソウル・ブラスト!」

続いて、何かが砕ける澄んだ音が私の耳に届いてきた。

私はロキに、”災厄”の様子を見に戻ることを告げ、そこできびすを反

した。






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