「―――あなたたち・・・」

そしてようやく彼女は私たちに気付いたようだった。

「フェンリルと、何をもめていた?」

「何でもないわ。」

その声色から、ジェニライの機嫌が悪いことは確だった。


腕を組み、彼女は私とリオンとを交互に見つめた。

「リオンはいいとして、あなたはどうして広場に?」

答えに戸惑う私に代わって、リオンが答えた。

「あなたと、探索に出ようと思ってここへ来たそうだ。」

「―――そう。」

そこで、ジェニライの心の中に張りつめていた糸が切れたように思えた。

彼女はいつもの口調で私に言った。

「そうね。じゃあ折角だから、三人で探索に行きましょうか」

フェンリルとの言い争いなどなかったかのように、ジェニライはそう私

とリオンを探索に誘った。




「最近調子はどう?リオン。」

「それは、昨日のことを聞いているのか?」

「まあ、そういうことだけど。―――ごめんなさいね、まだ剣の呪いを

解く方法は見つからないわ。」

その彼女の言葉に、リオンは答えなかった。



私の視線が、なんとなくリオンの肩にある剣に移った。

刀身は鞘に隠れて見えないが、鍔に埋め込まれた宝玉が真紅の色

彩を放っている。

あまりにまじまじと見ていたせいか、リオンは私に声をかけた。

「剣が、気になるのか?」

私はリオンに、剣の呪いとは何のことなのかを聞いてみた。

そして、それを解くことが、樹海へ来た目的なのかということも。



少しの間があって、リオンが口を開いた。

「私は・・・私がこの剣を手にしたことで、大切な人を守ることができた。

だから、呪いを解くことがここへ来た目的ではない。」

「・・・でもね―――」

彼の言葉に、ジェニライが割っていった。

「呪いを解くことが、今のリオンには必要だと思うわ。それに、その人

をそのまま放っておくのはかわいそうだし。その人がここに来ないっ

てことは、リオン、 貴方は何も言わずにここへ来たっていうことよね。」

「・・・そうするしか、他なかった。」

「でも、いつまでも魔剣に拘束されたままというわけにはいかないで

しょう、リオン。昨日だって、あやうく命を落とすところだったのよ。こ

の前だって――― 」



ふと、昨日、リオンを揺さぶっていた女の言葉が思い出された。



―――リオン様が、魔剣のせいで動けなくなっていたので、私が・・・


そうすると、彼が倒れていたのは剣の呪いによるものということにな

る。しかも、ジェニライの話では昨日に限ったことではないらしい。

「とにかく、早く呪いを解いてしまわないとね。」

「・・・その必要はない。」

強く断言したリオンに、ジェニライは肩をすくめた。

「結局いつもそう。必要ないって、貴方はそれでいいかもしれないけ

ど、残された人はたまらないわ。」

私もジェニライのその言葉に頷いた。


「・・・・・・。」


立ち止まり、リオンは私とジェニライを無言で振り返った。

思わずわたしたちの足も止まる。



その紫色の瞳は、明らかに何かを訴えていた。

固く閉ざされていた 彼の唇から、わずかな言葉がつむぎ出された。

「・・・・・・君らには、関係のないことだ。」

目を伏せて再び歩き出すリオンに続いて、ジェニライも溜め息を吐い

て歩き始めた。



離れていくリオンの背を見ながら、私ははっとした。


―――もしかすると、リオンは言葉も自由に話せないのではないだろうか。

    彼の一挙手一投足が、全てが魔剣に支配されているのだとしたら―――



彼がそこまでして守りたいという、「大切な人」。

しかし、魔剣を彼が持つがゆえに、その人に会うことはできない。



―――そんなの、悲しい・・・・・・。

私には、何もできないのだろうか。

こんな私にも、なにかできることがあるはず・・・。

そう、剣の呪いを解く方法を見つけること。



「置いていくわよ!」

ジェニライの言葉に我に返った私は、あわてて二人を追い掛けた。




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