| 私は目の前の植木鉢にうわった星型の葉を見つめる―――否、そ れは植物では茎と呼ばれる部分であり、むしろそれは植えられてい るというよりも植木鉢の土の中に刺さったような形になっている。 図鑑によると、スタ−・サボテンといわれる、この世界では珍しい植 物らしい。 窓際に置かれたそれは、日差しを十分に浴び、きらきらと針(葉)に ついた水滴・・・私が先ほどまいた水のせい・・・が光っている。 この植物は、いつの間にか家の庭にうわっていた。 それがいつだったかはあまり覚えていない。 誰かが植えたのか、それとも嵐で子供が飛ばされてきたのか。 いずれにしても、偶然庭でそれを見つけた私はそれを育てることにし た。 サボテンは寒さに弱いらしい。 寒期が来る前にと、私はサボテンを穴の空いてしまったバケツに植 え、陽のよく当たるこの窓辺に置いた。 そして毎日見ているうちに、私はこのサボテンが愛おしくなった。 サボテンの観察は、特に何もすることのない私の日課となっていった。 そして今、私はこの星型の茎を見ている。最近では、このサボテン がどこから来たのか、どんなところで生きていたのか・・・などというこ とを考えるようになってきた。 やはり、樹海から来たのだろうか。 ”樹海 ”とは、この世界の東にあるとてつもなく広い森林地帯のこ とである。 いつの頃からか、人も住むようになったらしい。 聖域に人が住むことがいいことなのか、それは私には分からない。 けれども、何かが起きているらしいということは知っているし、それが 他ならぬ人のせいだということも分かっている。 なんとかしたいとは思うけれど、私一人では何もできない。 ゆえに私は気にしないことにしていた。 サボテンの針から雫が落ち、土に消えていった。 ―――樹海、見にいってみようかな・・・。 私はいつの頃からか、そう思うようになっていた。 親はすでに他界しているから、私を止める者といえば・・・このサボテ ンくらいだろう。 旅の仕度は大分前から出来ているのに、足が思うように動かない。 私は立ち上がり、目の前の窓を開けた。 冷たい金属の錠を開け、固くなった窓を力いっぱい外へ押し出した。 少し大きな音がして、窓が開いた。 それと同時に、ぬるい風が私の頬をかすめた。 寒期の開けた証拠である。 私は外を見つめながら一人考えた。 ―――行くなら今が一番じゃないかな。サボテンは庭の日当りのい い所に植えれば枯れてしまうこともないし・・・寒期までに戻っくれば 何も問題はないよね。 私は植木鉢を持って庭に出かけた。 そして、鉢の土ごとサボテンを出し、畑に植えた。 それから私は家に戻り、窓に錠をさし、荷物をしょって扉を閉めた。 もちろん鍵もかける。そして、畑の横を通り過ぎ、街道に続く道へと 歩いていく。 私は立ち止まり、家を振り返った。目の端に、スターサボテンが映っ た。 ―――行ってくるね。 小声で誰にともなくそう言って、小さな旅への第一歩を踏み出した。 ・・・・・・ next page>> |