| でもどうして、そんなことを私に話してくれるのだろう・・・? エマソニルは、私に問う。 「そなたは、魔剣について多くを知っていた。そして、自身の力が弱いことも。それでも剣 に近づいたのは、何故だ」 そう問いかけるエマソニルの言葉に、先ほどまでの”強さ”がないこと私はを感じた。その ことに心の中で首を傾げながらも、私は彼に答える。 ――確かに私は、魔剣が怖かった。 樹海で動けなくなってしまったリオンの姿や、樹海を出たところで襲われた記憶は、私の 頭からは簡単には消えない。 けれども、リオンの瞳に時折浮かぶ哀しみや、彼を助けようと必死なクリス、それにカイ ンの迷い。彼らのことを見ているうちに、私は・・・お節介なことではあるのだけれど・・・彼 らを助けたいと思った。彼らのような、武器で戦う力は弱いけれど、でも、私にもできること はある。 だから私は、私にできることを精一杯やりたい。 エマソニルは、私をじっと見据えた。 「それで、自らの命を落とすようなことになっても、か」 彼の真剣な言葉に、私は少し考えた。 確かに、死ぬのは怖いし、死にたくはない。でも、中途半端なままに投げ出して、何もなか ったように生きていく。それで、よいのだろうか。 きっと、それでもクリスやリオンは許してくれる。・・・・・・でも。 他ならぬ、自分が、そんな自分をずっと赦していられるだろうか。 だから私の答えは、もう決まっている。 私は、死にたくはない。でも、一度関わったことを投げ出したまま、生きていくつもりもない。 それに・・・ いつだって、答えは一つじゃない。今は、クリスやリオンもいる。 きっと、死なないですむ方法は見つけられるはず・・・。 エマソニルは、相貌を僅かに見開いて、微かに口を開いた。 そのまましばらく何も言わずに、何かを考えているようだったけれども、やがて遠くに視線 を移して話し出した。 「私は、力の強さは、心の強さを表しているのだと思っていた。・・・だが、そういうことでは、 ないのだな」 彼の言葉に、私は付け加える。 ――私だけじゃなくて、クリスもリオンも、カインも、そのことを知っているからこそ、私に 魔剣についての色々な話してくれたのだと、思う。 そして、きっと、ディーンも。 最後に話した名前に、エマソニルはひどく驚いたようだった。 だから私は、ディーンの書いた日記を読んだことを話した。そして、彼がエマソニルのこ とを、とても心配しているようだったということを伝えた。 話していくうちに彼の瞳が、先ほどと同じような悲しい色を帯びていくのが分かった。 「・・・知っている。確かに彼は、私のところに来た。そして私は・・・親友であった彼を、 傷つけてしまった」 日記にあった、空白の20日間。 彼はどんな想いで、友に刃を向けたのだろう・・・。 「私には、王としての力が足りない。だからディーンに、剣を壊すと言われた時、私は我 を忘れてしまった。・・・この剣を失うことは、この国が滅びることと同じだからだ」 国を背負うエマソニルと、彼を支えるディーン。 ・・・それは、あまりにも似ていた。 エマソニルは、遠くを見たまま続ける。 「彼は、私のために剣を壊したいと言った。・・・私は彼のために、剣を失いたくないと、 言った」 似ている。彼らは、リオンとカインにあまりにもよく似ている。 そして魔剣は、エマソニルの手を離れ、エマソニルの像の手に握られることとなったのだ。 ・・・・・・あれ? でも、確か魔剣は、度々失われてきた、とクリスやカインは言っていなかっただろうか。 エマソニルが死んでからの剣のことを、私は訊いてみた。 「当初は、私の像に飾っていたようだが、やがて力を求めるエマソンの者の手に渡ってい った。何度かは発見されて、像のところに戻されたようだが、かなりの長い間は人の手に あった」 ・・・・・・それはきっと、像の建設者であるディーンにとっては、悲しい話なはずだ。 エマソニルは・・・もともとの持ち主であるエマソニルは、ここに現れる所有者たちのことを、 どう思っていたのだろう。 「悲しいことだが、この剣を手に取る目的は、いつも一つしかなかった。だから私は、強い 力だけが全てではないことを、ここで彼らに話していた」 彼は、ふと視線を私に戻した。その様は、彼が何かを思いついたようにも見えた。 「そなたは先ほど、この剣が魔剣と呼ばれていると言った。それは・・・呪いのように見えたの は、もしかすると、私がここで彼らと話をしようとしていたことと・・・自身の心から来る、迷い や恐れが、現れていたことが関係しているのかもしれん」 強い力を持つがゆえに襲われる感情・・・・・・それが、彼らの行動を縛っていた。 きっと・・・ディーンの目にも、エマソニルの姿がそう見えたのだろう。 でもどうして・・・エマソニルは、ディーンに相談できなかったのかしら。 ふと彼を振り返ると、エマソニルは空を仰ぐように見ていた。 「私は、ここで待っている。・・・この剣を求める者、その中に、力ではなく他を想うが為に剣 を手にした者が、現れることを」 その言葉に、私ははっとした。 エマソニルが待ち続けている人・・・それは、もう、現れている。 でも・・・彼は、どうして気が付いていないの? 私はひとまず、リオンとカインの想いを、エマソニルに告げた。 彼らは決して、力が欲しかったわけではなかったと言うこと。 二人は、互いのことを想っているのだけれど、でもその想いは伝わっていないということ。 そしてそれは、この魔剣が原因なのだと言うこと・・・。 「・・・私は、彼らと話が出来なかった。彼らは、何も私に話してくれなかった。何故、彼ら がこの剣を望んだのか・・・」 どうして、二人とも、彼に話さなかったのだろう・・・? エマソニルと、二人は、ここで出会っているはず・・・。話だって、きっとしたのだろう。 特にリオンは、ここにいた時間が長かったはずだ。 ・・・・・・。 それとも、話せなかった・・・・・・? もしかしたら・・・・・・ リオンやカインもまた、エマソニルと同じだったのかもしれない。 彼らも、自分独りで、いつも背負っていたのだ。・・・一人で背負うには、大きすぎるものを。 ・・・・・・to be continued |