シリウス 番外エピソード2 「――黒爪、召喚」 2. …まさか。 イディアは、一つの可能性を思いつく。…これまでの術は、ほとんどが風の属性 の術。もしも…もしもデルタが、すでに何者か…風の属性者を召喚していたら… それならば、術の詠唱を短くすることも、二つの術を同時に放つことも可能だ。 全力は出さない。でも、勝負の手を抜くつもりはない…そういうことか。 もしもこの考えが正しいならば、自分は今、二人を相手に戦っていることになる。 これは少々厄介だ。これまでに、かなりの魔力を使っている。だがデルタの方は、 大した力も使っていないだろう。 ならば自分も…今回の切札を使うしかない。 イディアは何を思ったか、再びフレームテイルを唱え始めた。背後を振り返った デルタは、構えを崩さずにその姿をじっと見ていた。彼女はなかなか才能のある 魔術師だ。何度も同じ手を繰り返すようなことはしないはず…。 別段、詠唱や印に手を加えたところはなさそうだった。ということは、同じ術な わけだが…。 「フレームテイル」 彼女を中心に、炎が地を走る。…だが、その動きはこれまでとは違う。 四つの炎は、みな同じ動きでイディアの周りを回る。デルタを襲う気配はない。 …これは。 炎の中心で彼女は呪文を唱え始める。 「…我、汝の力求めるものなり。暗き闇、猛き闇…その深遠より出ずる力、我に 貸したまえ」 それは、魔術ではなく、紛れもない召喚術の構成だった。術が唱えられていくう ちに、フレームテイルの地を燃した軌跡が、光を帯始める。するとこれは…術の 補助魔方陣。 「その力持て、我が前に立ちはだかるものを打ち払え。我が声に応えきたれ、闇 の魔竜よ」 術が完成し、魔方陣から黒い霧が吹き出した。続いて立ち上る、黒い何か。 それが形をとる前に…それから伸びた何かが、デルタを絡め取った。野次馬たち があっと思ったのもつかの間、彼の姿はたちまち霧の中へと引き込まれて消えて いった。 霧が晴れて呼び出されたものがその全容を現したのは、それから間もなくのこと だった。術は、成功したのだ。 「…流石に強いわね。期待以上だわ」 イディアは、自身が呼んだ魔物を間近で見上げる。教科書はもちろんのこと、歴 史書で調べてもこれほどの魔物の姿は見られないだろう。実際、召喚方法の記さ れた本にも、その容姿については具体的な描写がなかったのだ。 辺りで様子を見ているギャラリーも、驚きと物珍しさにその姿に見入っている。 霧の中に消えたデルタはどうしたのか、姿は見えないままだ。 勝負は着いた。 辺りに彼がいないままであることに気がついて、イディアは魔物に命令を下した。 「さて…と。勝負も着いちゃったみたいだし、そろそろ解放してもらえないかし ら、ファフニールさん」 一瞬の静寂。その後に響いたのは、だが命令を了とする返事ではなく、低い哄笑 であった。 「たかが人間の小娘が、いい気になるなよ」 「――何ですって」 「生け贄は確かに頂いた。だが、それはお前の命に従うこととは違う」 「――なっ」 闇色の体躯に血色に染まった双眸が、真っ直ぐにイディアに向けられた。イディ アは、その視線を慌てて逸らした。召喚術の基本――自分よりも強力な力の魔物と 視線を交わらせてはならない。 「契約を交わす気がないのに、何故現れたのよ」 「この世界には滅多に来られないからな。存分に楽しませてもらおうかと思った のさ。術者の処置も大したことがなさそうだしな」 「――!」 同時だった。魔物の尾がイディアを叩き潰そうとしたのと、ヴェルガーがその彼 女の体を横から拐っていったのは。 突然自分の体が横に引かれて、イディアは衝撃に備えて体を強張らせた。 「何やってるんだ、ディア」 すこし離れたところに着地して、二人は魔竜を見た。 「どうして…どうして召喚者の言うことを聞かないのよ」 「ふん、笑わせるな小娘。お前の術に拘束力などはない。俺を呼び出した時点で 、お前の呪は力を失ったのさ」 「…そんなことがっ」 召喚術の教科書になど、そんな説明は一言も書かれていなかった。術の構成に問 題が…?そんなこと、あるわけない。あってはならない。だってあの教科書は… すべての術者が学ぶ本だから。 「ふん…まあいいさ。術者でなくとも、狩りは十分に楽しめそうだからな」 そう言って、ファフニールは辺りを…野次馬を決め込んでいたイディアの仲間た ちと、その先…村の方へと視線を走らせた。 「こいつ、まさか村を襲う気か」 ヴェルガーの言葉に、イディアははっとして再び魔物の前に出た。 「村には近づけさせないわ」 「お前ごときが俺を止められると思っているのか。俺も随分と舐められたものだ な…」 竜は、軽く口を開いて…その中の様子は、暗すぎてまったく分からないが…黒い 舌を覗かせて舌舐めずりをしてみせた。 喰われる。――ここで引いても、負けてしまっても。 あれだけ魔力を消費した後だ…本気で死を覚悟しなくてはいけない。 デルタがいれば、まだ勝負になったかもしれない。…何ということをしてしまっ たのだろう。いや、後悔は後だ。後ですればいい。この魔物を、倒せたその後に。 杖を構える彼女の横に、ヴェルガーが剣を構えた。驚くイディアが振り返る。こ れは、自分の責任だ。 「確かにこれはディアのせいだが、俺はディアの仲間だからな…こっから先は通 さねえよ、この身が滅んでもな」 その彼の言葉が、イディアには嬉しくもあり、同時に悔しくもあった。…これは 罰だ。 「ハハハッ本当に舐められたものだ!…いいだろう。見せてやる」 魔竜が、地響きとともに魔方陣から一歩前へ出る。 ――来る! 「その身に味わわせてやろう…この、魔王の右腕と呼ばれる俺の恐怖をな」 辺りの空気が、その冷たさを増したような気がした。二人だけで…何とかなるだ ろうか。 イディアは覚悟を決めた。…この責任は、命を賭けて負わなければならない―と。 そして残ったありったけの魔力を集中させようとした、その時だった。 何やら、気配が動くのを二人は…いや、二人と一匹は感じた。 魔竜の攻撃――ではない? 「…その覚悟は、大事にしなければなりませんが。今は、その時ではない、でし ょうね」 緩やかな…だが多少の緊張を含んだその声には、聞き覚えがあった。…でも、ど うして? 暗い巨体の影から現れたのは、紛れもないデルタだった。…本当に本人なのだろ うか? 「デルタ…!どうして」 「なんだ、生きてんじゃねぇか」 驚きの声と、残念そうな声が、同時に響く。だが、魔竜に喰われたのではなかった のだろうか。 彼は魔物に背を向けたまま、二人に近づいた。 「あれくらいでは、私は倒せませんよ」 「でも…貴方は」 「私が光の属性者だと気が付いて、闇の属性者を呼び出した。…流石です、イデ ィアさん。私も正直、ここまでしてくるとは予想できませんでした」 緩やかな笑みを浮かべながら、彼は二人と魔物の間で立ち止まり、告げる。彼女 は誉められているのだが、このような状況ではイディアはどうしても喜べなかっ た。 「ですから…。そんな貴女に敬意を表して、お見せしようと思います。貴女なら …その資格がある」 言葉半ばのその時、デルタはファフニールの前肢に捕らえられる。 「どうやって避けたかは知らねぇが、今度は逃がさねえよ」 血生臭い息に顔をしかめるデルタ。だが、特に慌てた様子はない。そのままの状 態で、彼は静かに言った。 「…話の最中に…うるさいですね」 「自分の置かれた立場を考えて物を言え」 「……アウグストゥスの犬も、随分よく吠えるようになったものだ」 低く呟いたその彼の言葉に、それまでの余裕に満ちていた魔物の声が、突如 緊張と・・・そして怒りに満ちた声に変わった。 「貴様…何者だ」 だがデルタはその問いに答えず、術の詠唱をもって返した。 「我、汝の力求めるものなり。その暗き闇の懐より生まれし、猛き闇の力を我に 再び与えたまえ」 集中して詠唱を続けるデルタに、魔物は滅びを宣言する。 「何を呼び出すのかはしらないが、それをじっと待つ気はねえよ」 「契約の印のもと、汝に求める。来たれ、我が元に!我が声に応えよ!」 「死ね!」 「――来い、クロウ!」 詠唱の終わり言葉と共に、彼の周りの空気の流れが変わった。 そして魔竜がデルタを握り潰そうとしたその時、黒い何かが弾けるのが二人には 見えた。 断末魔のような低い叫び声が大きく響いたのは、その直後だ。 「…な、何」 呆然とするイディアたちの前に、デルタが降り立った。すばやくその場で背後 を振り返り、ファフニールに向けて術を放った。 「ダーク・インパクト!」 翳した手から生まれた衝撃波が、左脚を裂かれて怯んだ魔物を吹き飛ばす! 「き…貴様…!」 腕から流れる魔竜の血が飛び散り、辺りは生臭い。 「…私を倒したいのなら、飼い主を連れてくることです」 「舐めるなよ人間めが!」 イディアとヴェルガーを置いて、デルタが横に駆け出した。風の術の影響か、そ の動きは軽く、素早い。 怒りに燃えた魔竜が、尾と牙と、後ろ脚でデルタを容赦なく追撃する。 「塵になれ!テラーファイア!!」 咆哮とともに、十数個の炎の塊が魔竜の頭上に現れ、そして彼を目指して落下し た。 四方から迫る炎、その大きさは、デルタの身の丈の数倍はあった。氷の術だけで は、食い止められない。いや、詠唱が間に合うか? 「――デルタ!」 イディアも、何とか力を貸そうと詠唱を始めたが、それをヴェルガーは止めた。 「ヴェル!」 「アイツは、お前に見てろって言ったんだろ?…だったら、お前は見てるだけで いいんじゃねぇか?」 「でも!」 デルタが殺られそうなのを、黙って見ているだけにはいかない。なぜなら、この 魔物は自分が呼び出したのだから。 けれども、彼はイディアの肩を掴み、彼女を止めた。 「いいから、見てろ。アイツがこの状況をどう切り抜けるのか…勝算がないんだ ったら、最初からあんな余裕は見せないはずだ」 イディアは、デルタを見た。確かにヴェルガーの言う通り、彼は魔物の術に怯え ることなく炎を見つめている。でも、いったいどう切り抜けるのか。 炎の塊が降り注ぐ直前―― 「――門!」 その光景を見ていたものは皆、己の目を疑った。 炎は次々と何か見えないものに押し留められたかと思うと、何もない空間に吸い 込まれるように消えてしまった。 炎を止めたデルタは、攻撃を仕掛けた。 「凍える精よ、凍てつかせよ。ナイトブリーズ!」 その発動の詞に、イディアははっとする。今のは――!? 彼の回りの空気が構えた両手のあたりに暗く凝集して、次の瞬間冷気とともに 魔物に向かって拡散する。冷気に覆われた部分、その至るところから氷が勢いよく 伸びて標的すべてを氷付けにする。 後ろ脚から腹の辺りまでが氷に覆われたファフニールは、怒り…だけでなく、 驚いたような表情で立ちはだかっていた。だがしかし、デルタを睨み付ける真っ赤 な瞳は、血走っているためか怒りに燃えるためか、さらに赤く輝いている。 「貴様…どうやら口だけというわけではなさそうだな」 「…ですから。飼い主を連れてこなければ貴方は勝てない…そう言いました」 「ふざけるな!こんな氷でいい気になるなよ」 ファフニールは、自由であった前肢に力を入れたかと思うと、その強靭な腕の 一撃で氷を破壊した。もはや残骸と化した氷から後ろ脚を抜き出すのは、造作も ないことであった。 「…まあ、これくらいで伸びてしまったら、それこそ魔王も名折れでしょうが」 「余裕でいられるのもここまでだ、小娘!」 いつの間に術を唱えていたのだろうか、咆哮と同時に、今度は黒い稲妻がデ ルタに向かって降り注ぐ。 だが、彼はやはり動かない。そして稲妻は、やはり届く直前に消えてしまう。 「…無駄、ですよ」 笑みこそ見せてはいないものの、余裕の表情で佇むデルタ。その姿を、ファフ ニールは挑発と取ったようだ。 「ならば…我が全力をもって貴様を喰らうまでだ」 宣言とともに、魔竜の体が黒い霧のようなものに覆われる…。それは徐々に辺 りいったいに広がりつつあった。黒い霧から、イディアとヴェルガーは急いで身を かわし、茂みの影へと逃げ込んだ。 「我が血肉となるがいい!」 四方から伸びてきたらしい何かが、凄まじい勢いでデルタの四肢を絡めとり、魔 竜の体内へと引き摺りこもうとする。 地を踏みしめながら、デルタは術を唱える。そして詠唱が終わる直前に、何かが 彼の周りに素早く降り下ろされて、彼の四肢を自由にした。 驚く魔竜に、唱えた術が炸裂する。 「ダーク・エクスプロード!」 離れたところから、イディアはデルタの戦い方を観察していた。先ほどから彼の 唱えている術は、すべて闇属性が絡んでいるもの。そしてその詠唱の短さから 考えて、彼が先ほど喚んだのは、闇属性の魔物だ。だが、彼は…彼の体質上、 闇属性の魔物を侍らせて、問題はないのだろうか。 「…なかなか、しぶといですね」 平然とした口調で、呟くデルタ。放った術は、魔竜の巨体を傷付いた方の腕ごと 吹き飛ばしてしたものの、その他の鋼鉄の皮膚におおわれた部分はまったくの無 傷であった。 「くそ…こうなれば…。この辺りいったいを貴様とともに吹き飛ばしてやる」 中途半端な攻撃では通じないと判断したのか、そう吠えるとファフニールは天を 仰いで深く息を吸い始めた。黒い霧が、風とともに螺旋を描いて開かれた顎の中 へと消えていく。 「…あれは、混沌の息か」 誰にともなく言ったデルタは、ようやくその表情を引き締めた。 …息による攻撃は照射範囲が広いため、厄介だ。しかも、混沌の息には様々な 属性が含まれているため、迎え撃つための術の元素によっては返って息の威力を 高めてしまう危険がある。 デルタが、さらに低く小さな声で呟く。そして術の詠唱に入った。 「汝招かれざるものよ、我が力をもって、汝の身を送還する」 それは、召喚したものを在るべき場所へと返す術。 以前は、街に迷いこんだ魔物を戦わずして遠ざけるためによく使われていたのだが、 平和になった今はほとんど使われなくなった術だ。イディアも、教科書で読んでそ の存在を少し知っているくらいだ。 だが、当然のことながら術者の力が召喚されたものよりも勝っていなければ、術 は成功しない。魔物を退去させるために使われていた時は、複数の術者が詠唱し ていたようだ。デルタ一人…いや、それと彼の召喚獣の力だけで、どうにかなる ものだろうか。 「我が身に眠る光の元素よ、我が身に宿りし闇の元素よ、我が声に応えし風の元 素よ。いまここに集いて我に力を貸したまえ」 魔物の口の中へと消える空気の収束が、徐々に遅くなっていく。イディアたちは、 彼の戦いを固唾を飲んで見守っていた。彼の術が効かなければ、次は自分たちの 番なのだ。 「闇の世界より出でし力よ、汝が在るべき地へと還れ」 口を閉じて、ファフニールはデルタを睨み付けた。 「喰らえ、小娘―!」 限界まで吸いためられたブレスが、一気に放たれる。 その攻撃の直前、デルタは天へと構えていた右手を素早く降り下ろして突き出し た。 すると…大きな…デルタの身の丈よりも大きいだろうか…黒い竜の頭部が彼の前 に現れ、同じようにブレスを放った。 その勢力は、どちらも互角だ。 驚愕するファフニール。そして、デルタが発動の詞で術を締めくくった。 「我らが前から消え去れ!リバース・ゲート」 再度、魔物の足元から黒い霧が勢いよく吹き出す。そしてそこから延びた何か が、ファフニールを縛り、暗い底へと引き摺りこんだ。 ファフニールはブレスに集中していたために、その不意打ちに体制を崩した。 それが全てを決した。 送還の呪力から身を振りほどこうと息を吐くことを忘れたファフニールは、まと もにデルタの召喚獣の息を浴びた。 断末魔のような低い叫び声が辺りに響き渡り、戦いを見ていた面々は思わず震 え上がり、身をすくめた。 やがて息の攻撃が絶えて視界が戻る。それでもなお抵抗する力が残っていたの か、魔物は胴体半ばまで引き込まれている状態で、その淵に手をつけて留まって いた。…その瞳に、不思議な色を湛えて。 「そうか…貴様が黒い爪の使い手か。噂には聞いていたぜ。…なかなかな土産話 ができたな」 そうして魔物が…笑ったように見えた。それに応えたのか…彼もまた笑ったよ うにイディアには見えた。だがそれはほんの一瞬のことで、次の瞬間にはファフ ニールは暗闇の中へと呑み込まれ、デルタはもとの表情のまま巻き込まれないよ う数歩後退していた。 魔物の姿が消えてしまうと、辺りの黒い霧もまただんだんと晴れていった。 「やった…のか」 ヴェルガーの声で、イディアは今までの光景が、紛れもない現実であったこと を認識した。あまりにも自身が描いていた“戦い”というものが、生易しく、甘 いものだったからだ。 教科書では決して学び得ない、厳粛なる現実。初めて見た“戦い”の光景に彼 女は戦き、震え、怖れた…自らの死の可能性を目の当たりにして。 ふと、戦いを終えたデルタが、こちらを…見物人たちを振り返った。 …なぜだろう、彼の周りがいまだ黒い霧に覆われているように、薄暗い。 気が付けば、辺りはもう夕暮れが近かった。日の傾きが、そう思わせたのかも しれない。けれどもイディアは…彼に駆け寄ろうとした彼女は、その一瞬を躊躇 った。夕暮れ時に日が落ちて暗転に至るのは早い…だが、その時急に辺りが暗く なったような錯覚を覚えた。…デルタが振り返った瞬間。 ―よろしいのですか?…夜は、私のテリトリーですよ その言葉の、真意。光の属性者である彼…イディアは、彼の属性が確かに光だ と感じ取っていた…が、闇属性を自らの得とするその理由。…その原因が、先ほ ど彼が喚んだ召喚獣にあることは明らかなように思われた。 四元素と呼ばれる、地、水、火、風とは性質を異にする元素、光と闇。それら は時に、聖と邪と捉えられることもあるが、それが大きな間違いであることを知 る者は、実のところ少ない。光であっても邪なるものは在り、闇であっても聖な るものは在る。但し、その特性上、光と闇が聖邪と深く関わっていることは事実 だ。その特性とはすなわち…力。 “癒しの光”という言葉があるように、光には傷付いたものを癒したり、事象 を元に正したり…あるいは、何かを生み出すといった元素特有の力がある。一方 “安息なる闇”という言葉から推測されるように、闇は事象の収束や消去、ある いは崩壊させる力を持つ。 光と闇の元素は、その強力な力から聖邪の者に度々利用されてきた。だが勿論、 その強い力行使するには、相応の実力が必要となり、中には逆に力に呑み込まれ た犠牲者もいたほどだ。結果、一部を除いた人々は光と闇の元素の取扱を禁忌と し、多くの魔法書からその記述が消えていったという。 光と闇の元素を行使する…デルタ。イディアは彼に対し、畏怖の情を抱かずに はいられなかった。 デルタが少し彼女に近づいて、言う。 「少し、歩いてきます。…夕食には戻りますので、話はその時に」 「…え、えぇ」 その声が掠れていたことに、デルタは気がついたかもしれない。彼はそれ以上 は何も言わずに、背を向けて林へと姿を消した。 ≫3 へ |
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