シリウス 番外エピソード22.5
「雨の日の夜 〜delta side〜」


 夜も更ける頃の街は、静けさに覆われ始めていた。まるで、息を潜めるかのように、ひ

っそりと、夜の街は佇む。

第二のラグナロクが起きて、およそ20年。人々の脳裏には、夜は人のある世界ではない

という記憶が、未だに払拭されることなく残っていた。恐怖の気持ちで、彼等は夜闇が去

るのを待っている。満天の星空も、銀色に輝く真円の月も、人々の心の奥底にある闇を照

らすには、十分ではない。陽光の下でさえ、やつらは襲ってくるのだから―――

「ようやく静かになりましたか・・・」

聞こえるのは、酒場のマスターが食器を洗う、どこか寂しげな音のみ。そんな中、一人ご

ちたのは、サモン・マスター、あるいは銀のサモナーの異名を持つデルタ。人目を避ける

かのように酒場の裏口近くにあるテラス席が、彼のお気に入りの場所だ。


 ふと、遠くに獣の遠吠えが聞こえた。夜は、例え街の中であったとしても、安全ではな

い。人に化ける獣も少なからずいるからだ。

彼等を人々は、こう呼ぶ。邪神の加護を受けた存在、即ち―――魔物と。

彼等が現れたのは、ラグナロクとほぼ同時期のことだ。以来20年、人々の未来は暗黒に

閉ざされたままだ。


 ではなぜ、人は完全に滅びてはいないのか。


ある者は、邪神の気まぐれと嘲笑し、またある者はハンターの成果だと彼等を称賛した。

ハンター・・・常人にはない優れた身体能力により、魔物を刈る者たちのことを、人はそ

う呼ぶ。しかしながら、ハンターの数が増えても魔物の数が減らないというのが実情でも

あり、ハンターの行為を疑問視する者もいる。デルタもまた、そんなハンターの一人だ。

視線を外に向けると、薄雲に徐々に覆われつつある空が目に映った。

明日は、雨だろうか―――。


 酒場に残っているのは、酔い潰れた、あるいは騒ぎ疲れて眠っている者たちだ。その様

子を横目で見て、再びデルタは思う。

「・・・くだらない」

決して平和と言うわけではないのに、人は笑い、騒ぎ、今この時を楽しむ。それが、彼に

は理解できなかった。

喜び、悲しみ、憎しみ、哀れみ、憤り、楽しみ・・・そういった感情に、何の意味がある

のだろう。魔物たちの前においては、全ての感情が無意味となる。そのことを、デルタは

よく知っている。

どんな感情を前にしても、彼らの取る行動は一つだ。

 ―――人間の死。

そのことのみが、彼らを喜ばせるのだ。そしてそれこそが、彼らの存在理由なのである。

そう考えて、デルタにはこの世界で生きることの意味もまたないのではないかと思うよう

になっていた。魔物を前にしては、人間の命など蝋燭にともる火よりも儚い。

「生きることになど・・・いったい何の意味があるというんでしょう」

そう自問すると、それに答えるものがいる。

「意味などない。ただ、お前が生きている、それだけだ」

魔竜クロウクルーウァッハ。デルタの心の中を棲み家とし、黒の呪いでデルタの身体を蝕

む魔物。サモナーとしてデルタはその力を行使することができるが、決して主の命に従う

ばかりではない。

「・・・黙れ。貴様に何がわかる」

珍しく憎しみの感情を見せた彼に、クロウは笑う。

「珍しいな。そんなに否定されるのが気に障ったか」

クロウの問いに、彼は答えない。ただ、むっと押し黙った。

クロウの言いたいことは、デルタにはわかっている。生きることに、本来意味や感情は必

要ない、ということを。けれども彼は、そのことがわかっていてもなお、感情を捨てきれ

ずに生きているのだ。理由は、彼自身にもわからない。

だから、ときに彼は生きる意志すらも見失うことがあった。内なる気持の矛盾が、全ての

気力を失わせるのである。昔の彼・・・クロウに再会してからもそうだ・・・には、そう

思うことがよくあった。

 それが変わりはじめたのは、ある男に出会ってからのことだった。

『俺は、まだ死なねぇ。俺は、俺が納得するまで生き延びる』

彼はそう言った。その言葉が、デルタには未だに忘れられない。

その男は、今デルタの目の前にいる。

「・・・・・・こんなところで寝ていると風邪を引きますよ、ユゥアさん」

ユゥア・・・白光のユゥアとして名の知られる彼は、腕利きの盗賊である。彼の義手であ

るレフトアームは、旧世界(ラグナロク以前の時代)の遺産であり、彼に力と名誉を与え

た。

 彼の存在は、デルタにとっては異質としか言いようがない。彼は、力と、そして何より生

に執着する。デルタとは、まるで反対だ。だが、彼のその言い分を真っ向から否定するこ

とが、デルタにはできなかった。それが、彼なりの考えや、経験からくるものだと心得て

いるからだ。

声を掛けてもなお、起きる気配のない彼・・・ユゥアは騒ぎ疲れて向かいの席で眠ってい

た・・・に外していた外套を掛けて、席を離れたデルタはそのまま、戸口の方へと向かっ

ていく。

「ん?デルタさん、お帰りかい?」

「ちょっと、外の空気を吸ってくるだけですよ」

食器を洗う手を休めて声を掛けるマスターに、すぐ戻ると告げてからドアを開けて表に出

ると、ひんやりとした夜気が頬にあたった。僅かに湿った臭いを感じて、明日は雨になる

と悟る。そういえば、ユゥアと初めて言葉を交したのときも、同じような雰囲気の中だっ

た。




「こんなところで誰かを待ってちゃ危ないぜ」

闇に黒く沈んだ海を前にして、デルタは磯に佇んでいた。・・・いや、正確には、男の言

うように、彼は誰かを待っていた。

「ええ・・・」

気のない声でそう返して、しばらく双方無言のまま時が流れた。

「貴方こそ、どうしてこんなところへ?」

別に興味があったわけではない。ただなんとなく、相手が去っていく気配もないまま無言

で留まっていたのが、気まずく感じられたからだった。

「ん〜、ただの暇つぶし、だな」

ちらりとデルタが背後を振り返ると、まだ若い、軽装の男がこちらを・・・海のほうを眺

めていた。

相手が別にそれ以上声を掛けてくる様子もなかったので、彼は再び視線を戻し、黒々とし

た海の、その中に意識を集中する。

この時、二人とも互いの目的とするところを取り違えていた。

「そろそろ、来そうだな。・・・俺より下がってないと、巻き込まれるぜ」

男が海の中の魔物の気配を探っていたことに、この時デルタは気がついた。そして、おそ

らく自分と同じことをしようとしていることにも。


 ―――海にヒドラが群れを成している。なんとかして欲しい。

それが、デルタの受けた依頼だった。おそらく依頼人は、複数のハンターに声を掛けてい

たのだろう。となると、あの男もそれなりに名の知れたハンターということになる。

デルタがそんなことを考えていると、海のなかの気配が一変した。

 ヒドラ・・・肉食で獰猛、大きさは、成長したものでおよそ家3つ分。胴体からは大木

を2本並べたくらいの太さの首が複数生えている。大体の種類は単体で行動するが、中に

は群れを成して生息する種類もあり、街が一晩で滅びたと言う話もハンターの中では有名

である。その気配が、海の中から徐々に海面へと移動していた。

彼らは基本的には海の中に生息しているが、地上に出ても数時間は行動できる能力を持っ

ており、それは街が壊滅するのには十分すぎる時間である。しかも、水よりも抵抗がない

分、彼らの動きは素早くなる。

海の中では、攻撃しにくい。陸に上がったところで一気に片をつけるのが得策だった。

そのためには、ある程度の数を把握しておく必要があったが、頭が複数あるヒドラは、気

配の見分けが難しい。デルタが前方に意識を集中していると、不意に腕を強く後ろに引か

れた。

「危ないから、下がれ。死にたいのか」

男は、真剣な眼差しでデルタの双眸を覗き込み、何に驚いたのか、目をわずかに見開く。

その彼の言葉に、ふっとデルタは自嘲めいた笑みを漏らした。

「・・・そうなれれば、本望ですね」

男は一瞬怪訝そうな顔を見せ、そして次の瞬間、デルタを強い力で引き倒した。あまりの

ことに、彼は体制を崩して腰をしたたかに打った。

そこに、男が勢いよく掴みかかる。

「簡単に死ぬなんて言うんじゃねぇ!世の中には生きたくても死んじまうヤツがたくさん

いるんだ!それを・・・」

男が腕を振り上げたそのとき―――

突如、地響きが起こった。

どうやら、二人が少し油断をした隙に、本格的に上陸を開始したようだ。数は正確にはわ

からないが、10匹程度はいるようだ。

「ちっ、着やがったか!」

海面に鎌首を並べたヒドラが近づいてくるのが見えた。

男はすぐさま体制を立て直して、海のほうへと駆け出した。デルタもまた、迎撃体制に入

り、いつでも術が使えるよう意識を集中した。

ヒドラの動きは思ったよりも早く、あっという間に、海岸にその巨体が迫ってきていた。

それを見ていたのか、走っていた男の姿は一転し、空高く舞った。

「さて・・・どう攻める」

「まずは、陸に上がってからですね」

クロウの声に、心のうちでそう返事を返すデルタ。口の中で小さく術を唱え始めていた彼

だが、陸に向かってくるヒドラのうち数体が、突然業火に飲み込まれたのを見て、詠唱を

中断した。一拍の間をおいて、熱風が通り過ぎる。

放ったのは・・・

見れば、先ほどの男が虚空で、どこに隠していたのか、大きな銃を構えていた。そして、

次の獲物に照準を合わせている。

次に放たれたのは、雷光。

「あれは・・・魔弾銃ですか」

魔力をこめた弾を、魔力の爆発により発射する銃器のことを、そう呼ぶ。もちろん、容易

く手に入るものではない。確か、旧世界で盛んに開発されていた代物だ。

「デルタ・・・来るぞ」

クロウの声に、右手を振り返るデルタ。ヒドラは、目と鼻の先に迫っている。

近くにいたさらに数体を片付けて地上に降りた男は、デルタにヒドラが迫っていることに

気がついて、再び駆け出す。

5つの頭が別々に、しかし巧みな連携で、彼を襲う。

5つの頭部の攻撃をすばやく交わしながら、デルタは胴体の下にもぐりこんだ。そこにき

て、頭上に手をかざす。

「―――ブレス」

一瞬、彼とヒドラの間の空間がぶれたように見え、男は目を見開く。次の瞬間、薄青い色

の風が、ヒドラの身体を貫いて、そのまま魔物の動きを止めた。

怪しく光っていたヒドラの目から、輝きが消え、大きく開けた口は閉ざされない。

そのまま、魔物はバランスを失って大きな地響きと共に倒れた。

これが、魔竜の放つ死の息吹である。触れた瞬間、生きとしいけるものの鼓動を止める、

魔の風。ヒドラもその例外ではない。

倒れたヒドラのそのすぐ横に、佇む彼を見つけ、男はほっと胸をなでおろした。

「・・・大丈夫そうだな。お前がやったのか?」

デルタは無言で頷いた。

「ってことは、お前も同業者(ハンター)なのか。・・・しかし、今のはいったいなんな

んだ?」

静かに男の方を見返して、デルタは口を開く。もともと彼は、自分からは喋ろうとしなか

った。

「あれは、召還獣によるものです。・・・あなたこそ、今時珍しいものをお持ちのようで

すが」

ああ、と、男は笑みをもらす。

「レフトアームだ。俺の宝さ」

武器そのものの名に、聞き覚えはなかったが、やはり旧世界の遺産なのだろうとデルタは

悟る。

「俺の名は、ユゥア。お前は?」

「・・・デルタ。サモナー・デルタです」

その名前に聞き覚えがあるのか、ユゥアは興味深そうにデルタを眺める。

一方のデルタも、ユゥアという名前を聞いたことがあり、その双眸を細めた。

「噂には、聞いています」

「まあ、とにかく残りを片付けちまおうぜ。話はそれからだ」

互いに背を向け合い、迫るヒドラと対峙した。残りは、5匹ほど。いままでの戦いからみ

て、二人が相手ならば片付けるのにさして手間はかからないだろう。

「3匹まとめて仕留めてやるぜっ!」

ちらりと背後を振り返ったデルタは、その場で目を見張る。ユゥアの左腕の型が崩れ、代

わりに腕の太さほどの銃口が現れた。そしてそこから、紅い閃光がほど走り、ヒドラの身

体を3匹まとめて貫通する。

戦うことを一瞬忘れて、その光景に見入るデルタ。おそらく彼が放ったのは、高密度に集

約させた光エネルギー・・・すなわち、レーザー光。細胞を分子単位で破壊し、再生不能

とする強力なエネルギー砲。噂には聞いていたが、そんなものが実在するとは、と目の前

で戦う男にわずかに戦慄を覚えた。

「―――デルタ、避けろ」

横から現れたクロウの腕が、一瞬逃げ遅れたデルタをつかみ、ヒドラのかみつきを回避さ

せる。

「夜闇に紛れし凍れる精よ、凍てつかせよ」

体制を整えて、デルタが魔物の真横から術を放つ。するどい氷柱が獲物を串刺しにした。

残りは1匹だ。すると突然、最後の一匹が威嚇のためにか咆哮をあげた。

次の術を放とうとした彼は、そのヒドラの行動に違和感を覚えた。通常の魔物の上げる声

とは、質が違っていると本能的に感じたからだ。

「いったい・・・この咆哮は」

それは、何かを呼ぶような、そんな色を含んでいた。だが、いったい何を?

「片付けないのか?だったら俺がやるぜ?」

レーザー砲を構えるユゥアを無言で止めるデルタ。彼の真剣な・・・というよりも、むし

ろ神経質にあたりを探る様子を見て、なにかがあったのだとユゥアは悟る。

「―――来るぞ!」

クロウの声に、デルタは顔を上げる。どこから聞こえたのかわからないが、緊張感のある

太いクロウの声を聞き、ユゥアは戸惑いの表情を彼に向けた。


 ―――その刹那。

突然、二人の周りの磯の岩が天に向かって吹き上がった。その中から現れる、不気味な気

配・・・。それは明らかに、ヒドラのものとは格が違っている。

「・・・な、なんなんだよ。なんでユルムンガンドがこんなところにいるんだ!」

紫紺の岩肌。土砂の隙間からのぞかせたその姿は、どうみても伝説に聞く魔獣、ユルムン

ガンドだ。第二のラグナロクで暴走した、当時の技術の結晶とも言える生物のうちの一種。

ヒドラの首を5本ほど束ねた太さのその胴体は、ゆっくりと二人の周りを回り始めた。

「人間どもが、我らに刃向かうとは・・・愚か、愚かなり!!」

未だ全容を現さないユルムンガンドは、どうやらそのまま二人を締め付けるつもりらしい。

魔獣がそれを実行に移す、その一瞬早く、ユゥアは空高く舞った。

その眼下で、朽ち縄の影に消えるデルタの姿―――

「逃がすか、小僧!」

虚空を飛ぶユゥアを、ついに現れたユルムンガンドの頭部が襲った。喉の奥に、蓄えられ

た光がユゥアの目に映ったが、今の彼にはそれを交わすことはできない。

「―――くっ」

レフトアームの自己防御機能が稼動し、放たれたユルムンガンドの猛毒のブレスを軽減し

たが、彼はかなりのダメージを受けていた。着地と同時に、身体を支えきれずにひざをつ

く。

一方のデルタは、ユルムンガンドの岩壁のような胴体に、きつく締め付けられていた。筋

肉に食い込むなどと言う、生易しい痛みではない。そのまま胸骨が折れて、内臓を突き破

ってしまいそうなほどの重圧が、彼を襲っていた。激しい痛みに、思考が停止し、目の前

が暗くなる。

―――このまま、死ねるのだろうか。

黒い爪の呪いは、常にデルタの身体を蝕んでいるが、そのまま放っておいてもすぐに死に

繋がるわけではない。それに、彼が死ぬということは、彼の心の中に棲むクロウの死も意

味するのだ。自殺など、クロウが許そうはずもない。

ならば・・・このまま消えたほうが、いいかもしれない。

すぅっと瞳を閉じ、全身の力を抜いた。押し寄せる重圧に、身を任せて。クロウが何か文

句を言っているが、彼の耳には届かない。彼はただ、死を・・・その瞬間を待っていた。


しばらく楽にしていると、不意に身体を揺らす衝撃が走った。反射的に目を開けたが、ま

たすぐに瞳はゆっくりと閉ざされていく。

ふと、デルタは遠くのほうで誰かの声を聞いたような気がした。

「・・・た」

・・・誰・・・だろう。

「・・・るた」

声は、段々大きくなって、デルタの脳裏に蘇る。

「・・・デルタ!そこにいるのか!!」

声は、そう、言っていた。いや、叫んでいた。朦朧とする意識の中で、デルタは、それが

誰の声なのか、漠然と感じていた。

「・・・ユゥ・・・ア」

小さな声は擦れて、声にならない。上空に逃げたユゥアは、無事なんだろうか・・・。

そんなことを、ぼんやりと考えていたときだ。

デルタの四肢が、重圧から開放されたのは。

「な・・・」

見れば、ユルムンガンドの岩肌が、蒸発して異臭を放っている。やったのは、やはり―――

「冗談じゃねぇ、黙って死ねるかよ!」

ユゥアの叫び声が、はっきりとデルタの耳に届いた。身体の節々が痛み、その場にひざを

着く。だが、まだユルムンガンドを倒したわけではない。

安心はできないのだが、どうにもデルタの身体は自由に動かなかった。

「俺は、まだ死なねぇ。俺は、俺が納得するまで生き延びる!!」

その言葉のどこに触発されたのだろうか。

はっと、デルタは顔を上げた。

デルタは、ユルムンガンドの胴体の向こうにいるであろう、ユゥアに視線を向ける。


―――生きていて、いったいどうすれば・・・


そう、思うデルタに対して、真っ向から対峙する男、ユゥア。彼のように生に執着する人

間に、デルタは初めて出会った。




「それを考えるために、お前は今、生きているのではないのか」

クロウの言葉が、彼を現実に引き戻した。外は、いつの間にか雨が降り始めていた。

「・・・あんな人には、初めて出会いましたよ。」

そして、ふっとわずかに笑う。

 あの後、デルタとユゥアの必死の攻撃により、ユルムンガンドは地に還った。だが、力を

使い切った二人はそのまま気を失い、ユゥアの相棒であるオルフにより、助けられること

となる。

そして・・・

「シリウス・・・か」

見上げると、薄い雨雲のその隙間から、青白い二つの星が見えた。デルタと・・・そして彼

らの所属する、ハンターのギルドと同じ名前の星は、雨雲に消えることなく、輝きを保って

いる。

「こんなところで雨宿りしてると、風邪引くぜ?」

後ろからマントをかけて寄越したのは、他でもないユゥアだ。

「・・・て、なんだ。デルタかよ」

少し早口に、そう呟くユゥア。・・・まさか、これでデルタのことを女と間違えるのは二

度目になることなど、本人には言えるはずもない。

そんな、ユゥアの内心の焦りもさして気にせず、デルタはマントを羽織りなおした。

「酔いは、覚めましたか?ユゥアさん」

「ああ、まあまあだな」

何かをごまかすように頭を掻いて、ユゥアは背伸びをする。

「さて、飲みなおすかな」

「・・・不死身ですか・・・」

「そう言えばお前、”鬼神”結局飲んでないだろう!」

「・・・私はもう帰りますよ、ユゥアさん」

後ろで不満を言い続けるユゥアを無視して、デルタは雨の中を歩き始める。

濡れた長い前髪から滴る露が、頬を流れた。

「私の・・・護りたいもの・・・」

呟いた声は、雨音のなかに消える。

「明日は、晴れるといいですね、クロウ」

街には、雨の中に沈んだ空気が淀んでいたが、今のデルタにはその雰囲気が、心地よく感

じられた。



――― END ―――



≪Back